ましろのよる

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──降りしきる雪は止む兆しを見せない。俺は白が敷かれた地面に靴底をなすり、無垢な色に自分の穢れを擦り付けていく。無垢なものは地上に堕ちてきた時に踏まれ、躙られ、穢されていくのが定めだ。あまりに酷く、そしてそれを当然とする世の理にめまいがするほどの絶望を覚える。 「──」 人は人に必要とされなければ生きていけない、生きていくためには必ずどこかで人との関わりが必要になってくる。どれだけ人を疎もうとも誰かと触れ合うことは避けては通れないし、どれだけ人を愛そうとも万人に好かれることは出来ない。私利私欲のすべてを捨て去って他人のために動こうとも、必ず誰かには眉を顰められる。それが世の常だ。 人を疎んで遠ざけようとも人と関わらなければ生きていけないし、万人を愛そうとも万人から同じ愛を返されるとは限らない。その事実のなんと遣る瀬無いことか。神妙な顔で聞くには当然の事実で、笑って聞き流すには重すぎる真理。なんとも面倒な姿を象ってこの世に生まれ落ちたものだ。 「──」 俺はゆうるりと、自分の歩んできた道を振り返る。 真白い道に自分の躙った足跡が残っている──きっとこれは今までに自分が傷つけてきた人々の心の欠片の墓標。そして前を向いて進む先にあるのは、これから出会うべき人々の未来の心。 踏まねば前には進めない。触れねば前には進めない。 「──」 贖罪の意味を込めて俺はまた一歩歩き出す。無垢な白を、優しい色を、罪悪を感じながら躙りゆく。 春が来て雪が溶けてしまおうとも、寒空の下に起こった出来事は自分の中に堆積していく。毎年、毎年、繰り返し降り積もる。溶けない雪と同じように。
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