太陽のコア

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太陽のコア

ーーー この国に来て1ヶ月、ラビの家にお世話になっていた僕が気づいた事は、この国の住人は、やけにラビに対して冷たいという事だ。 ラビにそれを問うと、「嫌われちゃったのかな?」と小さく笑っていた。 そんな似た境遇からか、健気に生きる姿に、いつしか僕は惹かれていた。 住人に冷たい言葉を投げかけられた時は、間に入って庇ったり、ラビが寝付けない時は、一緒に闇の住人になったり、遊んだり、ご飯食べたり、また眠ったり。 他愛のない幸せって奴を感じていたんだと思う。 そして、ラビは口癖のように言っていた。 「クロは、とても優しいね。私にとても甘くしてくれる。甘い時間をくれる」と。 だから、僕も口癖のように言ってあげた。 「ラビは美しい心の持ち主だね。純粋で真っ直ぐで、とても綺麗だ」と。 僕は、なんの疑いもなく、こんな時間が続いていくのだろうと、そう思っていた。 その瞬間(とき)が来るまでは。 ある時、国の兵士がラビを捕らえにやってきた。 もちろん、僕は抵抗したが、ラビは微笑んで「大丈夫」と兵士と共に行ってしまった。 その後、住人に話を聞いて分かった事がある。 この国では、太陽の礎という、国を滅ぼすほど膨大なエネルギーを持った、コアが眠っているという。 それが、今にも目覚めそうだという国勢の中、国は、生贄を差し出すという形で、そのコアを抑えようと決議した。 その生贄として選ばれたのが、他でもないラビだったのだ。 そして、住人たちは、そんなラビの運命を悟り、無意味に親しくなってしまえば、苦しいだけと、敬遠していたという。 僕は思った。ずっと、孤独で生き続けて。最後の最後まで、孤独のまま死なせてたまるかと。 儀式の前日。牢に忍び込んだ僕は、数日ぶりにラビと再会した。 「どうして? どうしてここに? 」 「もちろん! 助けに来たんだよ!」 僕たちは、看守にバレぬように、コソコソと会話する。 「クロ。ありがとう。でも、いいの。これで」 「何を言ってるんだよ!」 「大丈夫だよ。私が、犠牲になれば、この国は救われる。私に冷たくしてきた氷族たちも、本当は、私のために、そうしていたって知ってるし、私はこの国が好きなの。だから、守りたい。この国も、皆も、私を綺麗と言ってくれたクロも」 「ラビ…………」 それ以上の言葉は必要なかった。それほど、ラビの決意は強いものだと感じたから。 「分かった。でも、ラビ。きっと、寂しい思いはさせないから」 その決意を汲み取って、僕は牢を後にした。 ーーーそして、儀式の当日に祭壇に潜り込んでいた。 谷底に眠る太陽のコア。その崖上に立たされたラビ。 今、正に、ラビがその崖から突き落とされそうになる瞬間、僕はラビの元へ飛び込んだ。 「ラビ!」 「クロ!」 僕はラビを抱きしめる形で、谷底へと身を投げた。 「クロ! 何を!」 「言ったでしょ! 寂しい思いはさせないって! 」 「馬鹿!」 ラビの瞳から結晶が流れ落ちる。 「本当にクロは優しい。本当にクロは甘々なんだから。だけど、そんなクロが私は大好き。生まれ変われるなら、クロのような優しい心を持って生まれたい」 ラビの僕を抱きしめる腕に、更に力が加わる。 「うん。僕もラビが大好きだよ! その綺麗な肌も、純粋に皆を守りたいという、力強い気持ちも! 僕も生まれ変わったら、そんな綺麗な心と容姿を持った、強い存在になりたい!」 僕らは、もう二度と離れぬように、力強く抱き合うと、そのまま太陽のコアへと飛び込み、あっという間に溶け去っていった。 最後に見た光景は、ラビの柔らかな微笑みだった。僕らは、最後の最後に、独りではなく、一つになれたのだった。
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