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「私、加藤君から告白された」
幼馴染みの愛実に相談すると、彼女は少しニヤニヤして、私の『恋ばな』を楽しんでいた。
「やっぱり……、私は気付いてたよ。加藤君は玲美のことが好きなんじゃないかなってね」
「愛実は最初からそう思ったの?」
「まさか! あの時、玲美が強がって私に加藤君を紹介してきた時には、もう二人は付き合ってるんだと本当に思ったぐらいよ! 付き合うのを装うなんて、あんなまどろっこしいことしなくてもね」
「あっ、うぅぅぅ」
親友から過去の痛いところを突かれて、私は頭を抱え込んだ。
「ごめんごめん。でも、その後、あの日の夜に私の家にまで来て謝ってくれたじゃん。あれは嬉しかったな」
「そ、そう?」
と言いつつ私もニヤニヤが止まらなかった。
でも素直じゃない私は、「まだ、2週間ぐらい前のことだけどね」と言って、また変なところで強がって見せた。
「まぁまぁ玲美、せっかく私がフォローしてるのに」
「ありがと。でもでも、ああ、どうしよう」
「え? 加藤君のこと? なんで?」
「だって、まさか告白なんてされると思ってなかったから」
「ええー!? あんたその気が無いのに例の『帰宅部』を加藤君に提案したの!?」
「ううん、その気が無いって訳でもないけど……」
時刻は午後3時。今日はお互い授業が早く終わって愛実とカフェでお茶会をしている。愛実と私は違う高校に通ってるから、時間が合わないことも多いんだけど。
学校後にお互いの時間が合えば、会って2時間ぐらい他愛もない話をしては、そのまま帰っ て、やっぱり家族と他愛もない話をして、夕飯食べて、宿題やって、シャワー浴びて、そして眠る。
「まぁ、とりあえず今日は帰ってゆっくり考えなさい。あんたのことだからさ、加藤君には誤魔化して、どうせ返事も曖昧に茶化したんでしょ?」
「う、うん。バレたか」
「それは玲美の悪いところね。困った状況に陥るとさ、昔から話をそらすよね」
そういう彼女の指摘はいつも的確で、私の幼馴染みでありつつも、母親みたいなところも垣間見えてる。
「はい、気をつけます」
「うん! 返事が宜しい!」
とは言ってもそれは私の自信の無さ、引いては『劣等感』が、この私の隅々に行き渡っているからという言い訳もある。自己分析だけど、客観的に見ても、そう簡単に治せるってもんでもないと私は思っている。
「なんかあったらまた私に言いな。まぁ今度は私も負けてられないけどね~!」
「え? 愛実まさか!? 良い感じの人がいるの!?」
「うん、まぁ~ちょっとね、まぁ悪くは無いかなって感じの」
「クラスの人?」
「うーん、先生かな!」
「……あ……そう」
愛実は大人びてるから、驚きはしなかったけど、普通の同い年は合わないって前から言ってるし。
「ほんと愛実も懲りないね。中学のあの時もそうだったし」
「あ、だからあれは無し。それに嘘だよ、私も恋愛したいなぁ!」
「あの時の時間を巻き戻してあげたいよ、私は」
この私の発言に愛実は微笑んで、沈黙を守った。本当にバカなことをしたと本人も私も言っていたし、彼女は手痛いことも受けた。既婚の先生にあわや手を出して、まかり間違ったら、愛実の親と向こうの奥さんをも巻き込みかねない事態に、発展してたかも知れなかったからだ。
思い留まらせたのは私の必死な説得だった。頭は良いはずなのに、向こう見ず。クールなふりして、でも熱いハートを持つカッコ可愛い女、それがこの川中愛実だ。
彼女の好きなところは、私の持ってないもの。度胸や強気な姿勢。
だから、私は愛実の真似をして、似合わない意地を張って、彼氏が出来たなんて勢いで言っちゃったし。愛実とケンカになって、それでかの加藤君を巻き込んでしまった。
でも、結果的に加藤君と仲良くなれたし、愛実とも仲直り出来たし。
あの夜のとばりで、加藤君に会えたから。私は少しは変われたのかもしれないけど……。私は、「……恋か」とそっと呟いてみた。
「ねぇ、玲美?」
「うん?」
愛実は私の顔を覗き込んで、頬杖をついてこう続けた。
「去年の4月1日、覚えてる?」
「うん、覚えてるよ」
「あの日、私は確かに先生に告白したけど……でもね、本気では相手にはされなかったんだ」
「うん、そうだったね。愛実すごく落ち込んでた」
「あの日は、エイプリルフールだから……」
「……うん、もしかしたら、先生もそのつもりで聞いっちゃったのかもね」
「先生は笑ってたよ……、私も、きっと嘘をついてたんだ。先生と分かれた後は、ひどく虚しい気持ちになって。だってそれは、私にとって一番大切な人の存在に気づくのが遅すぎたから……、いつだって私は空回りばっかりだった」
「愛実?」
彼女は少しうつむき加減になって話を続けた。
「でも、私よく考えたんだ。去年の4月1日、私は本当は先生に告白をしたかったんじゃない。私が好きな人はさ……」そう言って彼女は、私のことを見つめた。
「……私が好きな人は、玲美、なんだよ」
「え?」
「だから、玲美なの!」
「え、ええ〜~!!」
もちろん今日はエイプリルフールじゃない。愛実は顔を赤くして、私から視線を外していた。
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