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「あの子――、ユキちゃんは、このあたりで亡くなったんですか?」  あわせていた手をおろし、僕は先生に尋ねた。道端の地蔵は、よく子供がなくなった場所に置かれると聞いたことがある。 「どうだろうね。ただ、ずっと見守っていてくれていたと、マナブくんは言っていたよ」 「見守るって、誰を?」 「みんなさ。昔から、彼女はここからずっと、みんなを見守っていた。だから、ときどき遊びたくなる日もあるんじゃないかい」  そう言って、埜呂先生は公園に視線を向けた。季節外れの雪が降り積もった公園には、誰もいない。静まり返った真っ白な空間は、どこか寂しげだった。 「僕、たまに彼女に会いに来ますね」 「そうしてあげてくれ」  埜呂先生はそう言って、目元を細めてうっすらと口元を緩めた。その表情は、ユキちゃんに会いに来たあの男に、少し似ていた。 「そろそろ行こうか、戒田君。遅刻してしまうよ」 「今日って、大雪で休校になったんですよ? 季節外れの雪ですし、遠方からの登校は危ないってことで、昨日の夜に連絡がありましたけど。ちなみに僕は、雪が珍しくて公園まで様子を見に来ただけです」  知らなかったんですか? と、僕は埜呂先生を見上げて首を傾げた。すぐに彼はコートの内ポケットからスマホを出し、忙しなくいじり始めた。 「……知らなかった。昨日の夜から、マナブくんに体を貸していたから」  学校からの連絡を確認したのか、先生は頭を抱えた。そのとき、頭上から少女の笑い声がした。 「え?」  僕は声がした方へ顔を上げた。声の主を探す間もなく、地蔵に覆いかぶさるように伸びた巨木が揺れた。太い枝に降り積もった雪が、僕と埜呂先生の上に落ちてくる。 「冷たっ!」  視界が白く染まり、僕は雪を振り払おうと首を振った。 「またね」  ちかちかと雪の結晶が視界に散らばる中、僕の耳に幼い少女のささやく声が届く。  聞き覚えのある声に、雪が落ちてきた枝を見た。一番太い枝に、小さな子供が踏んでいたような二つの足跡がついている。白い雪とまぶしい朝の木漏れ日がまぶしくて、僕は目を細めた。
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