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「だな」
とはいえ、だ。
『Rose』と[CRIMSONMoon]の間にはそこそこの距離がある。電車に乗っていけば20分程度ではあるが、みれいの尋問ののちすぐに[CRIMSONMoon]に来たとはいえ、時間は与えてしまった。すぐに見つかるような距離のところへは逃げていないだろう。
「……ちょっと、動いてくれてる同業者に連絡してみるね。セイの行方を知らないか」
「わかった」
セイは祓除師でありながら、人皮なんていう呪具を妖に売りさばいていた。
国怪対に認められた祓除師という身分があれば、祓除師には疑われにくく、また、祓除師という仕事の関係上妖とは否応なくかかわることもある。そういう意味では、祓除師とはもっとも妖との距離が近い仕事なので、交渉はしやすかっただろう。――よく考えてみれば、セイの立場は非常に潜伏に適しているものだった。
(みれいの動機は金だったらしい。みれいは、セイの目的は知らないらしいけど……)
セイはなぜ、人の皮などを妖に売りさばこうと考えたのか。
考え込みそうになった時、同業者に電話をかけたいたゆりあが、「ダメか」と言ってスマホをしまった。
「セイの居場所、わかんないや。祓除師は個人主義者が多いからかもだけど、セイと付き合いのある祓除師はほとんどいないらしいしぃ……」
「人海戦術で虱潰しに、って訳にはいかないのか?」
「虱潰しに、セイがいそうなところを調べられるほどの人数はいないんだよねぇ。逃げ出したホストが安易に潜伏できる場所なんでそうそうないし、ならさすがに都内からはまだ出てないとは思うけど」
「都内だけか? 神奈川とか、埼玉とか、隣接する県に脱出してる可能性は?」
「無きにしも非ずだけど、駅は同業者が張ってるからぁ。怪しい奴がいたら捕まえるはずだよ」
「そっか……」
なら、セイは東京のどこかに隠れているってわけか。
……だが、東京とひと口で言ってはみても、範囲が広すぎる。
その中から呪具の売人一人の気配を特定して見つけろなんて無茶ぶりもいいところだった。
「ゆりあの霊力なら、一応東京全域を覆える」
「……は? マジで?」
「マジだよ。でもそんなに広げたら、それだけ網の目も荒くなるから、敵の位置なんてわからない。式神使って遠くのものを感知しようにも、大雑把な居所くらいはわかってないとダメなの。ゆりあの式神は強いけど、多くない」
「……」
「れいぴは霊力をできるだけ広げても、感知の網の目は細かいままっていうセンスがある。でも霊力量が少ないから、東京全域の感知は無理。……だよね?」
「無理だ。というか、仮にそれだけの霊力があっても俺には無理だよ」
拾い上げる情報が多すぎてパンクする。
「……どうする……時間がない……」
ゆりあが難しい顔で呟く。
ツインテールにした黒髪が、周りのギラギラとしたネオンライトに照らされて淡く光っている。
時間がない、か。
たしかにここでモタモタとしていれば、せっかく見つけた売人を逃すことになるな。
(俺が式神を作れれば何か変わるのか……?)
式神作りはまだできていないが、足りないものはわかっている。――イメージだ。何を作りたいのか、どんなものがいいのか、まだ自分でもわかっていない。だからできない。
俺の弱点は、霊力そのものが少ないこと。
だから、感知の精度はよくても、広範囲の感知が不可能だ。
逆に強みは、うっすらと広げた網に過ぎなくても、対象が俺の霊力に引っかかれば、その気配がはっきりとわかる。
(だとすれば式神は……力の不足分を補いつつ、多くの情報を集めつつ、情報の整理もできるような……)
そこまで考えて、脳裏にひらめきが走った。
「ゆりあ」
「何? れいぴ。もしかして、何か思いついたの」
ゆりあが俺の顔を覗き込んでくる。
――期待をしている目だった。現状を打破する案を、俺が持っているのでは、と考えている目。
(……マジでおかしいのかも、俺)
初めて、ゆりあに俺の才能とやらを知らされた時には、あんなに『関わりたくない』と思ってたのに。
――いつの間にか、『ゆりあの役に立ちたい』と思うようになっている。
「ああ」
だから、俺は頷いた。
「適した式神を思いついた。
今から、その式神を無数に飛ばして搜索する」
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