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「雪が振り続けているのに積もったりしないのはなぜだろうか」
男はまた投げかけた。
「にゃーお、さあてなんでだろうね。しかしあなたがその疑問にたどり着いたほうが驚きだね。わたしは猫だが実は外の世界を知っている」
男は驚いたが、すぐに冷静になって猫にといた。
「この世界の他に異なる世界があるというのか。それはまた大きく出たものだ。人間にはわからないような感覚をどうやら動物のほうが機微に捉えているようだ」
「にゃお、先程まで雪がとぎれないこの世界に疑問をもっていた人物とは思えない言い草ですなあ。まあ信じるか信じないかは個人の勝手ではありますが、まるであなたは自分より大層な考察を述べられると鼻がへし折られた気分になるようですなあ」
「鼻がへし折られるとは大げさな。そしてそこまで心の小さな人間ではない。猫というものは人間とは違う独特の感覚を持っていることは周知の事実だろう。見えないものが見えたりだとか、なにかが起こる前触れをつかんでいるだとか。お前が化け猫の類であったっておかしくはない。そうとも、わたしはそういった奇怪な物事であっても動揺したり、浅はか考えを持ったりはしない」
猫はため息を付いてこう言った。
「先程から聞いてて呆れますな。私のことを化け猫の類と言ったり、自然に対して理路整然と述べたと思ったら怪奇の類を持ち出して現実離れのお考え、さすがはわたしら動物と違って人様の考えることは高尚なことであること。」
「では聞くがお前の見た雪の降っていない世界というものはどういったところに存在しているのだ。ここから行くことができるのか。それとも夢幻、昨晩みた夢や妄想ではあるまいな」
「浅はかな人ほど自分が言い負ける時にほどおかしな理屈を並べるもんだ。ここから行けるだとか夢幻だとか、そういった次元の小さなお話ではないですよ。あなたもわたしを見て分かる通り私は猫です。猫は不思議な力を持っているのです。別次元の世界に雪のない世界があることを知っているのも猫であるからです。どだいこんな話をしても信じちゃくれないと思いますがねえ、でも雪のない世界は確かに存在します。まあ猫がどれだけ説得力のある説明をしたところで耳の右から左へ聞き流されるのが落ちです。あなたもそう思っているのでしたら猫の話に耳を傾けるのをやめて、この世界の摩訶不思議な現象を探求し続けるといいいですよ」
そこまでいわれて男はなかなか猫のいうことを信じても良いという気持ちになっていた。
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