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太陽はかなり高くスマホで時間を調べると十一時を回っていた。四時間は歩いた。その目の前には原っぱ。立入禁止区画ではないが、整備もされていない。私は大きく息を吸い込んで草だらけの原っぱに足を踏み入れる。
きっと草で切り傷なんかもできちゃうような場所だけど、それよりも何よりも生首さんの奥さんとお子さんがいることを願う。
「なぜか懐かしい匂いがするもん」
「ここ、何かあったのかな?」
「今じゃ分からぬがきっと縁のあった場所のはずだもん。領地ではあったはずだが」
草をかき分けて進んでいく。
「志乃、ゆっくり歩くもん。あまり急いだら草で切り傷作るもん」
「分かってる。大丈夫」
とは言っても気は逸る。ここじゃなかったらどこに向かうか悩むが、何となくここの気がする。
「生首さん、奥さんとお子さんの名前を呼んでみなよ。生首さんみたいに分かりやすく意思表示しているとは限んないでしょ?」
「確かに。小夜ーー! 一郎太ーー! ゆうーー!」
立ち止まって耳を澄ます。すると声が聞こえる。微かな声だが確かに聞こえた。
「父様ーー!」
幼い男の子の高い声。
「一郎太ーー!」
生首さんは再び叫ぶ。私は声のするほうに足を向けた。
チクリと手の甲が痛む。草で切ったようだ。それでも。
かき分けてかき分けて進むと私にもはっきり見えた。藍色の着物の大人の女性に赤い着物の女の子。黄色い着物の男の子が三人寄り添って肩の上の生首さんを見つめてくる。
「小夜、一郎太、ゆう……。やはりまだ成仏しとらんかったか」
「母様が父様は必ず迎えに来ると言っていたのでお待ちしておりました。父様は首だけになってしまったのですね……」
「すまんな。わしはお前たちを守れなんだ。駄目な父よ」
「あなた、そんな卑下することはありません。私達はあなたがいない世界で生きていたくなかっただけです。生きていたとしても辱めを受けるだけですから」
「小夜ありがとう。ゆうもよく頑張った」
良かったと本当に思う。ただこれからどうすればいいんだろう? 生首さんはまだ生首のままだ。このままじゃ生首さんは家族に触れることもできない。
「やっぱり身体探さないと駄目だよね?」
「志乃、本当にすまないが頼むもん。身体がないと皆で成仏できない」
「お姉ちゃん、父様は私が持ちます。もう肩に乗せてなくて大丈夫だよ」
ゆうちゃんが生首さんを受け取ってくれる。
「志乃、あとは明日にしよう。志乃は頑張り過ぎだ。ただ家族も志乃の家に厄介になるが頼むもん」
「幽霊四体連れ帰るのか……」
ちょっとうんざりしたが、今更だ。春休みを潰す覚悟は出来ている。
「まぁいいや。帰ろう。どうせみんな他の人には見えないんでしょ?」
「余程霊力が強くなければ見えないもん。大体わしら悪霊じゃないんだから見えても放っとかれるはずだもん」
「じゃあいいや。行こう」
また草をかき分けて道に出る。生首さんの家族たちははしゃいでいる。
「四百年待った甲斐がありました。私たちはこの原っぱを出る勇気がなくて……。どんどん発展してい町を切なく見ていましたよ」
「母様は必ず父様が迎えに来るからって言うから我慢できたんだよ。やっぱり父様は英雄だよ」
ゆうちゃんは嬉しそう。一郎太くんは、行き交う車を目で追う。
「四百年、色んなことがありました。あの原っぱ、他の領主になってから刑場にされて、あそこで死んだ者が悪霊になったりして怖かった。車で逃げられるなら逃げたかった」
つい横を歩く一郎太くんの顔を覗くと涙を流していた。そうか。幽霊だって怖いものは怖いんだ。触れるかどうか分からないが一郎太くんの手を握ると握れた。
「お姉ちゃん?」
「もう大丈夫。お姉ちゃんがみんなを天国に送ってあげるから」
生首さんの身体を見つける。それで全部が終わるはず。きっとそのはずだ。明日も頑張らないと。
不思議な春休みになったが、これはこれでいいじゃないか。後悔なんて、もうないのだから。
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