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傍から見たら私はおかしく見えるのだろうな。一郎太くんと手を繋いでいたとしても、普通の人には見えない。見えない何かと手繋ぎしているんだから。
流石に子供の一郎太くんとゆうちゃんがいるために帰りは更に時間がかかって五時間。家についたときにはクタクタだった。時刻は十六時過ぎ。全員を私の部屋にあげてから昨日と同じようにお昼寝する。生首さんたちの家族は四百年の積もる話をしている。それを聞くのは起きてからでいい。家族がはしゃぐ横で夢の中に落ちていく。
またあの夢を見る。
『全く志乃は』
夢の中の見えない誰かは生首さんと同じ台詞を吐いた。夢だと分かっていても気になる。ただの偶然だろうけど、不思議なものだ。
『きっと目が見えたら泣くぞ?』
『泣かないもん。それに目なんか見えなくて大丈夫。側にいてくれるでしょ?』
『全く』
夢の中で涙が溢れそうになる。これは一体何の夢なんだろう? 生首さんの話を聞いて感傷的になっているだけなのかな?
フッと目が覚める。疲れは残っているけど少しは回復した。部屋をグルッ見回す。
「きゃああああああ!!」
「志乃ーー!!」
また、お父さんが駆け付ける。
「ごめん! お父さん! カーテンが幽霊みたいに見えて驚いちゃった!」
「志乃はそんなに怖がりだったか?」
「あはは。昨日、怖い動画見てさぁ。影響受けちゃったからしばらくは怖がるかも」
「そうか。あんまり怖いの見るなよ」
お父さんは去っていく。生首さんの家族たちはクスクス笑っている。生首さんは昨日と同じように口を尖らしていた。
「志乃、本当に酷くない? なんで全然慣れないの?」
「父様、生首に慣れろというのが無理があるのです。志乃様には世話になっているのですから、それくらい大目に見ましょう」
一郎太くんは生首さんよりずっと大人だ。ツッコミがいてくれるのも有り難い。一郎太くんも幽霊だけど。
「何回やっても部屋に生首いるのは驚いちゃうよ……。誰だってそうだよ……」
一応、弁解はする。意味はないと分かってるけど。
「で、どんな話をしていたの?」
「うむ。四百年前のことを話していた。わしの妻子は処刑場での処刑だったが毒殺だったと。それにわしの配下もほとんど処刑だったそうだ。原っぱから見ていた領地は大分荒れたそうでな。それでも一郎太は行き交う人の話をよく聞いていた」
「荒れてく領地を見ているしかできないって切ない……」
「結局死んでしまったら何もできないのでな。そこはいい。一郎太の話では、わしの身体は生き残った配下が山のほうに埋葬してくれたようだ。流石にさらし首になっている首までは持っていけなかったようだが」
「やっぱり生首さん、慕われていたんだ。でもよく生首さんの身体だって分かったね?」
「城を攻められたあと、城内で死んだ者はみな放置されたらしいのでな。無名弱小の小城など戦略的価値もないからな。生き残った配下たちも追われることはなかったようで、勝手に遺体を運んで埋葬しても問題なかったようだ」
「……それも酷いなぁ。敵だとしても敬意くらい払えばいいのに」
「いいんだもん。僅かでも生き延びられたなら、わしは嬉しい。もしかしたら現代に子孫を残したかも知れん。わしと心中するよりなら生き延びてくれたほうがいい」
今でも優しい人は騙されやすいとか言われるけど、優しい人は報われて欲しい。生首さんは弱かったんだろうがとても優しい。時代のせいと言ったらそれまでだけど、現代の優しい人が誰かを憂えながら志半ばで亡くなっていくのは精神的ダメージが大きい。生首さんの話にそんな感想を持ってしまう。
「志乃ーー! ご飯だよーー!」
お母さんの声が聞こえてきた。
「じゃあみんな、ご飯食べてくるね」
「志乃さん、いってらっしゃい。なるべく大人しくしています」
小夜さんがフワッと笑った。小夜さんは本当に綺麗だ。生首さんには勿体ないくらい。それでも小夜さんは生首さんの奥さんになったことは後悔していないんだろうな。雰囲気から分かってしまう。四百年待ち続けた事実もあるし。
ご飯を食べて、お風呂に入って、パジャマに着替えて、今夜は生首さんの家族の話を聞く。
「小夜さんたちは、誰かに声をかけようと思わなかったの? 生首さんは私に声をかけてきてくれたけど」
「それは無理でした。あそこは悪霊が多いので下手に人に声をかけたら、呪いにかかる悪霊もいましたので。志乃さんはある程度耐性があるようなので悪霊たちは手出ししませんでしたが」
「悪霊は本当に怖いんだ。機械とかであそこを整地しようとすると、運転手を事故に巻き込もうとする。霊能者の人も何回もお祓いに来たのに数が多過ぎて……」
ゆうちゃんが、グスンと鼻をすすった。私はついゆうちゃんを抱き締める。
「生首さんに会えて良かったね。もし身体が見つからなくてもずっとここにいていいから」
「志乃お姉ちゃんちゃん……ありがとう」
正直、身体を見つけられる自信は正直ない。山のほうといっても山全部は流石に歩けない。そっちには墓地があるが、そんなに分かりやすい場所にか? とも思うし、四百年前も墓地だったかも分からない。生首さん家族と一生付き合う覚悟だって必要だ。
あとは寝るまで、原っぱの前がどんな風に変わっていたか沢山の話を聞いてから私は眠りについた。相変わらず夢の中に落ちていく。
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