生首さんに憑かれた日々

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「でもさ、どうして生首さんは点字のことを知っていたの?」  ゆうちゃんに抱えられた生首さん。小夜さんと一郎太くんもちゃんといて山のほうへと歩く朝。水筒もおやつもちゃんと持った。今日も長丁場のつもりで準備万端。 「何十年前かに点字の話題をわしの前でしていた人がいたもん。志乃が生まれ変わるとしたら、何かできないかとずっと覚えていたもん」 「そっか……。二百年前の私のために覚えてくれていたんだ……」 「現世の志乃は目が見えていて本当に良かった。怖がらせたかも知れないが、わしは本当に嬉しい」  生首さんは本当に優しい。ちょっと眩しいくらいだ。生首だけど。 「父様は優しいから。よく子供たちと遊びたいって駄々こねて母様に怒られていたけど、私はイヤじゃなかったなぁ」 一郎太くんがしみじみと呟く。 「主人の良いところです。度は過ぎてましたので、私はしょっちゅう叱らないといけなかった」  小夜さんも楽しそうに話す。 「父様、私と同じくらいだもんな」 「おい。ゆうちゃんに言われてるぞ?」 「仕方ないもん。変に取り繕うより、ありのままのわしのほうがいいもん」  困ったお父さんだなと思いつつも、家族はそれで良かったんだろうな。それだけに領民は生首さんが滅ぼされたことを悔やんだろう。  山のほうに向かうと言っても最低三時間は歩かないといけない。一郎太くんとゆうちゃんの歩く速度を考えるとそのくらいだ。だが、山の麓ならいいけど山の中まで進まないとならないと更に時間はかかる。どこなのかは今いるメンバーは誰も分からない。  ただ、あまり疲れは感じなかった。キャッキャッとはしゃぐ家族と一緒だと何故か楽しくなってしまう。まるでピクニックだ。私以外、みんな幽霊だけど。  途中にあるコンビニやベンチで休憩を取りつつ、山の麓にある墓地へと辿り着く。 「生首さん、ありそう?」 「ううむ。分からぬ。流石にわしの身体は呼んでも返事をしてくれんし」 「てか、ここ、四百年前も墓地だったのかな?」 「流石にここがどこだったか、時が進みすぎて分からないもん」  生首さんと私が墓地の前で悩んでいると一郎太くんやゆうちゃんが墓地を確認しに行く。私が生首さんを抱えなければならなかったがこれは助かる。一人で探すより手分けしたほうが手間が省ける。  小夜さんは、空を見ている。 「あの太陽の位置と山の形からして、おそらく与平の館があるあたりです」 「本当か! 与平は生き残ったのか!」 「与平は生き残ったはずです。そこを訪ねましょう」  私は何を聞いているのか一瞬分からなかった。 「小夜さん、何者? 太陽の位置と山の形で場所分かるの?」  生首さんがふふんと得意げに鼻を鳴らす。 「小夜は地図を書いたり天気を予測したりするのが好きなんだもん。才女という奴だもん」 「ほぇぇ。そんなすごい人がよく生首さんの奥さんになったね」 「あら。主人は、男はこうであるべきとか女はこうだとか言わない寛容な人だから私は嫁入りしたのですよ。志乃さんには情けなく見えているかも知れませんが、とても慕われていたのですよ」 「慕われていたのはそうだろうなぁって思います。生首さん、こんなすごい奥さんいて、なんで滅ぼされちゃったのよ。もしかしたら奥さん、名前を残したかも知んないのに」 「面目ないもん」 「あなた、気にせずに。名を残すよりあなたの嫁になれたほうが私は嬉しいから」  目の前で惚気を見せられた。昨日から見てる感じだと、お互いに思い合っているのは分かるから文句は言うまい。 「ちょっと彼氏欲しいと思っちゃった……」 「志乃さんなら素敵な方を見つけられますよ」  小夜さん、本当に品があるな。幽霊だとは思えないや。
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