生首さんに憑かれた日々

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「小夜! 一郎太! ゆう!」  身体が元に戻った生首さんが最初にしたことは家族を抱き締めることだった。 「あなた……」 「父様……」 「良かった……」  見ている私も涙が出てしまう。この家族は再び会うのを願って四百年彷徨った。涙が流れないほうがおかしい。 「もう未練はありませぬ……」  そう口にしたのは与平さんだ。与平さんも涙を流していたが、キラキラと光り出す。 「四郎様は人の命を奪うのがお嫌いでした。優しい四郎様に仕えられて私は幸せでした。一足先にあの世で待っています」  与平さんは、静かに消えていく。成仏とはこんな風にするのかと思うと同時に気持ちが穏やかになる。生首さんは生首だったけど、人の命を奪いたくないから生首になったと思うとその優しさは底知れない。 「与平、ありがとう……」  抱き締め合っている家族は与平さんを見送ってから私のほうを向く。 「志乃にはなんと礼を言えばいいか。四百年の長き、わしは二度も志乃に救ってもらった。霊になっても諦めなくて良かった。輪廻を巡ったとき、再び志乃に会えるのを楽しみにしている」  生首さんたちもキラキラと光り出す。伝えなきゃ。生首さんに私を決めたこと伝えなきゃ。 「生首さん、あのね!」  声を張る。生首さんは優しい眼差しで私の言葉を待つ。 「私、介護士になろうと思う! 目の見えなかった前世の私を生首さんが助けてくれたように私はハンディ抱えている人を生首さんみたいに助けたいんだ! 生首さん! あの世から見守ってて! 生首さんが見張ってくれると思ったら私頑張れるから! 生首さんみたいな優しい人に応援されたら頑張れるから!」  生首さんは、優しく笑う。 「全く志乃は。わしが喜ぶ言葉ばかりくれるな。輪廻を巡るまで優しくする。いつ生まれ変われるかも分からぬが、それまで志乃を応援するよ。志乃ならきっとできるさ」  生首さんに抱かれていたゆうちゃんがまず消えていく。 「志乃お姉ちゃんありがとう。私も応援するよ」  ゆうちゃんはきらりと消えた。 「私もだ。生まれ変わったら志乃お姉ちゃんにまた会いたいなぁ」  一郎太くんが消える。  小夜さんと生首さんは、手をギュッと握る。 「志乃さん、くじけないでね。あなたは優しい。何なら四郎一右衛門より優しい。訳の分からぬことに付き合ってくれてありがとう」  小夜さんが頭を下げる。 「志乃、夢や生きるのを諦めるなよ。もし志乃が未練のある霊になったら、そのときはわしがきっと志乃を救う。魂に刻むよ。本当にありがとう」  生首さんと小夜さんはキラキラと光って薄くなっていく。 「変な言い方だけど、生首さんも小夜さんも元気で。一郎太くんとゆうちゃんもあの世でいっぱい甘やかしてあげて」  私、泣いている。幽霊が成仏していくこの瞬間に泣いている。 「生首さん、楽しかった! またね!」  さよならは違う気がしたので、またねという言葉を選ぶ。消えていく生首さんも小夜さんもうんと頷いてくれた。  残されたのは私一人。上を見上げれば枝の間からきらきらと陽の光が差し込んでいる。 「終わった……てか、始まったな」  背伸びをしてから前を向く。 「頑張ろうか。生首さんに笑われるようなことしたら、生まれ変わっても顔合わせらんないから」  歩き出す。何にもなかった私の胸に今は夢がある。生首さんと約束したんだ。どれだけ時間かかっても叶えてやる。生首さんに憑かれた日々は無駄にできやしないもの。  その夢にしがみついてやる。胸を張るんだ。今も前世も後悔なんかしないように。
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