生首さんに憑かれた日々

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 さて、家でゴロゴロするだけならジャージで充分だが、流石に外では恥ずかしい。何が恥ずかしいって中学のときのジャージを着ているからだ。高校のジャージならば、まだなんとかなったかも知れない。私ぐらいの年頃だとお洒落も楽しむのだろうが、ぶっちゃけ知るか。動きやすくて楽に勝るファッションはないのだよ。  とは思いつつもワンピースに袖を通す。お母さんがたまにはお洒落しなさいと買ってきたものだが、それは去年の春の話だ。一回くらいは袖を通したら申し訳はつくだろう。今回はうってつけだ。お母さんがいるときに着たものならば、可愛いとか似合うとか言われてぶち破りたくなる。褒められるのは嫌いじゃないが褒められ過ぎるのはイヤなんだ。生粋の面倒くさがりの私には、そのくらいの時間も針のむしろだ。  ワンピースだけでは、まだ寒いのでカーディガンを上に羽織る。流石に靴はいつも通りでいいか。お洒落は足元から始まるらしいが私には無縁の話だ。やりたい奴だけやればいい。  外に出ると穏やかな風と眠くなりそうな陽気が襲ってくる。気候はこうやって人類を外出に導くのだ。私もどうやらその誘惑に負けてしまったそうだ。  城跡までは歩いて三十分くらい。目の前を何度も通っているのに城跡だとは気付かなかった。建物は特にないし、桜の季節は花見している人がいるなぁと見ていたが、行きたいと思ったことはなかったからだ。正直、花見とかも面倒くさい。イベント全般面倒くさい。花見をして綺麗と言ったり、花火を見て綺麗と言ったり、雪を見て綺麗と言ったり。私の語彙力ではそこで会話は止まるのだ。  ザッザッと私の足音が聞こえる。育ちのいいお嬢様は足音をあまり立てないらしいが、そこも私とは無関係。なんならザッザッと足音を鳴らすほうが私は好きだ。足音って何だかワクワクするじゃん。何かが起こりそうな何かが近付いて来そうな。育ちの良さアピールをする気はこの先もないので問題ない。  買い物なんか買うものを決めて真っ直ぐ選んで真っ直ぐ会計して真っ直ぐ帰るのが最良。目的地が決まっているなら寄り道は不要。私はスムーズに城跡にたどり着く。お花見シーズンではあるが、ちょっと早いようで城跡の桜はまだ咲いていない。よしよし。人の多いところなんて一目散に逃げたくなるから、ちょうど人のいないこの状況はありがたい。お金も取られる訳でもないから、ふらりと公園となった城跡に入る。公園といっても桜の木以外、何もないのだから子供たちの遊び場にもならないのだろう。  ふらふらと意味もなく公園を回っていたら、それを見つけた。歴史が描かれた看板。いや看板よりもその上をふわふわと浮いている生首。さて、これは心霊現象なのか。立ち去るか悩んだがわざわざ出向いたのだ。看板くらい読んで帰ろう。 「ねぇ見えてるよね?」  生首がなんか言っているが無視だ。知らない人は無視に限る。  
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