生首さんに憑かれた日々

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 歩くといっても何もない公園。グルッと一周まわっておしまい。 「何もないね」 「何もないな」 「この場合、どこに行けばいい?」 「城跡だけじゃなくて町内まわっておくれ。妻子は刑場で殺されたかも知れんし……」 「ここ平和な町なのに昔にそんなことあったんだね」  生首さんを肩に乗せたまま、城跡を出る。何にもない春休みの一日だと思っていたのに、とんでもないものを抱えてしまった。ただ、こんなの友達にも話せないや。生首の幽霊を肩に乗せて町を歩いたなんて誰も信じてくれない。暇過ぎて死にそうだったから暇つぶしには丁度いいけど。  とりあえず、車が行き交う通りに出て右に行くか左に行くか迷う。 「そう言えばまだこの町に川はあるか?」 「あるよ。そこ行く?」 「川原が刑場になった可能性もあるから」 「先に生首さんの身体じゃないの?」 「どっちでもいいもん」 「そこは決めて欲しいなぁ。どっちでもいいとか、何でもいいとか、そういうのが夕飯の献立作る時に一番困るんだよ?」 「志乃は自炊しておるのか?」 「お母さんの話だよ」 「自炊の練習くらいせんとならんだろ? いつまでも甘えておれんだろ?」 「煩いなぁ。生首さん、本当に戦国の人なの? それっぽくないのに」 「生首の幽霊だってアップデートは必要だもん。現代人との会話をスムーズにするため聞き耳立てて寄せたもん」 「へぇ。例えばどんな?」 「子供に話を聞いてもらうため、歌も覚えたもん。おばけなんさないさ〜」  突然歌い出す生首さん。生首の幽霊がおばけなんてないさって歌うのシュールだ。子供も泣くだろうな。 「で、どうだった?」 「ギャン泣きされて逃げていった」  だろうなぁと思いつつも、そこまでしても妻子に会いたいのは純粋に羨ましく思える。 「でも生首さん、生きていたときは子供に好かれたんじゃないの?」 「子供は好きだったが一応領主なんだから、なかなか一緒に遊べなんだ。わしが怪我したら、その場にいた子供が刑を受けるからなかなかうまくいかない」  足は何気に川原のほうに向かっていた。昔はある程度大きな川だったらしいが川幅が狭まったこととじわじわと埋め立てて、町内の人しか知らないような川。釣り人だって見たことない。ただ、川原は空き地になっているから犬の散歩や子供の遊び場所になっている。 「本当に変わったもん。何百年ぶりかなぁ? 城跡から出るのは」  しみじみ呟く生首さん。幽霊になっても外を見たいものだろうか。何もせずに引きこもられるなら私は嬉しいのに。
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