生首さんに憑かれた日々

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「流れに沿って下ってくれんか? 家族の霊が近くに来たらきっと分かるから」 「面倒だなぁ。この川、せせらぎ川まで続いているんだよ? 一日じゃ着けないよ」 「そのせせらぎ川とは町内にあるのか?」 「そうじゃないけど……」 「町内だけでいい。わしは無名の城主だから妻子も大きい町で処刑されなかろう。必ず町内にいるはず」 「ふうん」  昔の話でも処刑の話とかは、聞きたくない。請け負ってしまったのだから途中放棄もできないけど。どちらにしても散歩の予定だったのだから延長したと思えばそれでいいか。  川沿いをのんびり歩いていく。たんぽぽやふきのとうもちらちらと咲いている。川のせせらぎを聞いていると眠たくもなる。 「ところでせせらぎ川って昔はせせらぎ川って言わなかったの? 生首さん、知らなかったようだし」 「おそらく、わしの時代ではせせら川と呼んでいたものだ。四百年も時が進めば名も変わる」 「生首さん、四百年前の人なんだ……」 「そのくらいのはずだ。概ねではあるけど」 「四百年もずっと生首かぁ」 「まぁそこそこ人が通ったので暇はしなかったもん。見える人でも昔の者は生首も大して怖がらなかった。よくあったものだし」 「生首、よくあったら私は腰を抜かすよ?」 「嘘だな。わしを見て一つもビビらない奴が言う台詞じゃないもん」 「それは生首さんが生首らしくないからだよ」 「どこからどう見ても生首だもん」 「気軽に女子高生に声かける生首がどこにいるんだよ? 生首さん、なんか軟派だし」 「今どきの女子高生も軟派とか言うのか?」 「目の前の女子高生が言っているんだから細かいこと気にしないの!」 「怒るとこじゃないもん……」  川沿いを下りながら生首さんと下らない話をする。行き交う人は私をちらちらと見る。見えない人からしたら変な独り言言ってる人にしか見えないもんな。生首さんがお喋りなせいで私も黙っていられない。  小一時間歩いて隣の町の入口まで来てしまう。 「ここで町内は終わりだけど?」 「……何もなかったもん……」 「ねぇ今日中じゃなきゃ駄目? 私、もう疲れた」 「明日でも明後日でもいいもん。わしは頼んでいる身だから志乃のやり方に任せるもん」  その辺は意固地になるかと思ったら生首さんは粘りもしなかった。 「今まで誰も相手にしてくれなかったの諦めが早いせいじゃないの?」 「動けないのに諦めも何もないもん。それに今は別の理由があるもん」 「別の理由?」 「それははっきりしたら教えるもん。今日は帰るもん」  もんと言ったり言わなかったり、意外ともんの語尾は気に入っているんだろうな。 「生首を肩に乗せて帰るのか」 「今更だもん」  不思議と憎めないのが私自身も疑問だ。確かに今更だけど、なんで受け入れちゃったんだろうな?
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