生首さんに憑かれた日々

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 生首さんも帰りは大人しい。さっきまで散々お喋りしていたのに用事が済むと黙ってしまうのはキツイなぁ。 「ねぇ生首さん」 「なんだもん?」 「いきなり黙ったら怒っているように感じるんだけど?」 「すまない。ただ、わし、四百年同じ場所にいたから話題がないもん。それにずっと誰かに探してもらうことばかり考えていたから、それ以外になるとなんとも」 「ふうん。まぁじゃあいっか。私もよく分からない話されても困るし」 「有り難いもん。志乃はみんなに好かれるているのだろうな」 「そんなことはないよ。私には取り柄はないし、勉強も苦手だし、運動も好きじゃないし、趣味らしい趣味もないよ」 「それでも充分楽しそうだもん」 「まぁそれは。ダラダラゴロゴロしているだけでも楽しいよ。なんかさ生きてるだけで嬉しく感じるんだよね。なんでか分からないけど」 「平和な証拠だもん。わしが生きていた時代は常に死と隣合わせだった。ゴロゴロできるのが嬉しいと感じるなら志乃は何が平和なのか分かっているからだもん」 「まぁ小さなことで感動できるから幸せは感じやすいかもね。夕焼け見るだけで感動しちゃう、目が見えるってだけでも感動しちゃう」 「そうか。やはり……」 「何が?」 「気にするな。わしもこうやって誰かの肩の上でも違う景色を見られるのは嬉しいもん。四百年同じ場所にいたし」 「生首を肩に乗せる女子高生に感謝して欲しいな」 「感謝してるもん」  話し出したら何気に話が弾む。帰宅して生首さんを自室の机の上に置く。 「疲れたぁ。ちょっとお昼寝するから生首さん、静かにしてね」 「承知した。わしも少し昼寝するもん。疲れとか分からぬが疲れた感じする」 「へぇ。まぁいいや。おやすみなさい」  ベッドに潜り込んで目を閉じる。身体が疲れていたせいですぐに夢の中に落ちていく。春の陽気は眠気を誘う。明日また歩かなきゃならない。明日もきっと帰宅したらお昼寝しなきゃならないくらい疲れるだろう。面倒事を請け負った気はしたけど、生首さんは人がいいから、もうやりたくないとは感じない。早く助けてあげないとな。  夢を見ながらそんなことを考えていた。声だけ聞こえる真っ暗な夢。誰かが私の声を呼んでいる。昔からよく見る夢。  何度も何度も私の名前を呼ぶ。色んな感情がこもった『志乃』を。どこかで聞いたことのある声。誰の声なんだろうな。
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