とけて つぶれる

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* * * * *  ライブハウスはイベント終了後に閉められるが、音楽スタジオは深夜の二時まで経営している。社員たちは二十三時には仕事を終え、続々と帰路に着く。しかし、主に音楽スタジオを任せている準社員の神無月は今日、インフルエンザだと連絡が入り、急遽十日間の療養に入ってしまった。  永井は事務所を出てライブハウスの鍵を閉めると、ぐるりと外を回って音楽スタジオへと足を運んだ。  受付には残業してくれているアルバイトの根本が気怠そうに座っていて、永井は入り口に設けている自動販売機でコーヒーを買った。 「あ、お疲れ様っす。社長」 「悪いな、残業させてしまってて。今はこれで勘弁してくれ」  そう言って今買ったばかりのコーヒーを手渡す。 「全然いっすよー。残業代付くんすよね?」 「ないとは言えないだろう。二時間以上残ってもらってるんだ」 「やったぜ」  根本は嬉しそうに笑い、しばらく永井と話をすると、もうすぐ電車が来る!と慌ててスタジオを飛び出して行った。しかし出て行く直前に、引き継ぎ事項!とばかりに一言言い残して行った。 「四番に庄野居ます! まだ利用料金貰ってないんで」  冗談交じりにそう言い残し、根本は急いで駅へと駆け出した。 「……四番」  永井は利用表に視線を落とし、今は四番の部屋以外、誰も居ないことを知った。根本に付き合って飲んでいたコーヒーを置き、庄野のいる部屋へと歩みを進める。そして断りもなしにドアを開けると、そこにはスヤスヤと眠る庄野が居た。  紅色の絨毯の上で、気持ち良さそうに眠っている。お気に入りのギターはスタンドに立てられたままだ。  眠る庄野を見つめ、永井はその隣にしゃがみ込んだ。  ツートンの髪色。金髪は絨毯の上に乱れ、永井は彼の顔を隠す黒髪をさらりと梳かした。 「風邪ひくぞ」  眠る庄野にその声は届かない。  無防備に眠るその姿を見つめ、永井は一人の男を思い出していた。
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