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あの日、遊園地に行く予定だった日、アウトレットモールの帰りにみんなでカフェでお茶をした。
北山は気乗りしなかったが、一緒に行った女子たちがどうしてもというので入った。
そこで出会ったのが、店員だった愛華だ。
20日に結婚する予定の。
あの日、もし桜井が来ていたら、愛華と出会っていただろうか。
おおよそ、会っていないだろう。
アウトレットモールには行かず、遊園地で一日中遊びつくして、それで終わりだった。
「やっぱりあの日、行けばよかったな」
と彼は、ちいさな声で言った。
俯いていたのが、さらにふかく下を向いて。
泣いているのかと錯覚しそうだった。
むかし、小学生か中学生のころ、桜井がこんなふうに泣いていた光景が蘇ったから。
「これは受け取れない。我慢して安いメシに付き合ってたわけじゃないし」
北山は祝儀袋から一万円札を3枚だけ抜き取ると、桜井に押し付けた。
北山は桜井の隣に腰をおろした。
座っただけだと落ち着かず、すぐに体を後ろに倒してねころんだ。
桜井が「仕事は?」と消えそうな声で言った。こっちを見ずに。
「40分だけここで寝る」
桜井の背中が小さく震えた。
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