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「お金なんていくらあってもだめだ」
ある秋の晴れた日、いつもお金がない、と嘆いていた友人がそう呟いた。
とっさにあらゆる反論が浮かんだが、彼が突拍子もないことを言い出すのは今にはじまったことではないので、北山怜司は無視する。
彼の名前は桜井一喜。
いつどこで知り合ったのかも覚えていないくらい古い友人だ。
長い付きあいだというのに、いまだ一ヶ月に一回連絡が来る。
親友と言われるとやや恥ずかしくて胸がざわざわするが、一緒にいて煩わしい相手でもないので、こうして会って、とくべつなにもない一日を送る。
まるで貧乏学生のような一日を。
ファミレスで安いごはんを食べたり、
公園の池で泳ぐ鯉を見下ろしながら缶ビールを飲んだり。
お互い社会人三年目だというのに、なぜこんな質素な食事をしているのかというと、たいてい桜井には金がないし、北山のほうは、金を使うのが好きではないからだ。
最初のころは桜井のほうが気を遣って「たまには良いところに飯食いいこう」なんて言っていたが、「だから金が貯まらねえんだよ」と北山が拒否した。
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