金のない友人【短編BL】

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 桜井が言ったのは、高校時代の同級生、男女合わせた五人で遊園地に遊びに行ったときの話だ。  たしか、大学を卒業したてのころだから、3年前の話になる。 実際には、遊園地は取りやめて、新しくできた大型ショッピング施設に行ったのだけれど。  記憶が飛んでいたのも無理はないが、少なくとも自分は忘れるはずのない一日だ。  しかしまあ、自分はともかく桜井がこの日を覚えていることには驚いた。 ーーあの日、参加しなかった桜井が。 「よく覚えてるな、そんな昔のこと」  もともと昔話をするたちではないが、あの日の話を掘り返されるのはむずがゆい。  友人相手ならなおさらだ。  けれど、桜井がいきなりこの話をしはじめたのが気になった。  こいつはこう見えて、わざわざ友人をからかうような男ではない。  食べるものも着るものも無頓着で、生活自体、まるで品がないように見えるが、人との付き合いはクールだ。 触れてほしくない部分には決して踏み込んでこないし、陰口なんか絶対に言わない。 だからこそここまで、自分との縁が続いているのだと、北山は勝手に思っていた。 もちろんそんなこと、わざわざ口には出さないけれど。 「あの日、お前寝坊して来なかったんだよな」 「そう。寝坊したんだよ。寝坊して、電車間に合わねえってなってさ。ーーでもあれ、40分あれば行けたわ」 「なんだよ急に」  あの日、駅でみんなと桜井の到着を待っていたら、桜井から「寝坊した」とメッセージが入った。  桜井はムードメーカー的存在だったから、アイツが来ないのなら遊園地に行っても面白くない。  そんなわけで、話し合った結果、遊園地ではなくアウトレットモールに行くことになったのだ。
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