金のない友人【短編BL】

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 北山はスマホで時計を確認すると、立ち上がった。 「1時間きった。帰るわ」 「え?」 「オレ今日、夜勤だって言ったろ」 「ああそうだった」 「悪いな」 「いや」 「しばらくはバタバタするから会えないかも。落ち着いたら連絡するわ」 「あと40分あればいいのにな」 「ないよ」  笑った。 じゃ、と言って北山は立ち去ろうとする。 すると桜井が、 「20日だっけ。結婚式」 「え?……ああ」 北山は今月の20日に結婚する。5年以上付き合っている彼女とのゴールイン。 正直、今は『幸せ』というよりは、変化に対する恐怖のほうが勝っているけれど。 「10時から。教会借りて。御祝儀は……」  いらない、と言おうとすると、桜井はジャケットの内ポケットから封筒をすばやく取り出し、手渡してきた。 「はい」  安っぽい茶封筒で渡されるのかと思ったが、のしと水引きのついたちゃんとしたご祝儀袋。  こういうところだけしっかりしているのが桜井らしい。 「え……」  驚いたのが、その厚さだ。見るからに、厚い。  破けるくらいに。  まさか千円札ではあるまい、と覗いてみたら、1万円札がぎっしりつまっていた。  50枚。いや下手したら、それ以上あるんじゃないか。  北山は驚いて桜井を見た。しかし、桜井はこちらを一向に見ようとしないまま地面の草を見ながら、 「遺産がはいったんだ。」 と、言った。
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