金のない友人【短編BL】

4/6
前へ
/6ページ
次へ
 北山はスマホで時計を確認すると、立ち上がった。 「1時間きった。帰るわ」 「え?」 「オレ今日、夜勤だって言ったろ」 「ああそうだった」 「悪いな」 「いや」 「しばらくはバタバタするから会えないかも。落ち着いたら連絡するわ」 「あと40分あればいいのにな」 「ないよ」  笑った。 じゃ、と言って北山は立ち去ろうとする。 すると桜井が、 「20日だっけ。結婚式」 「え?……ああ」 北山は今月の20日に結婚する。5年以上付き合っている彼女とのゴールイン。 正直、今は『幸せ』というよりは、変化に対する恐怖のほうが勝っているけれど。 「10時から。教会借りて。御祝儀は……」  いらない、と言おうとすると、桜井はジャケットの内ポケットから封筒をすばやく取り出し、手渡してきた。 「はい」  安っぽい茶封筒で渡されるのかと思ったが、のしと水引きのついたちゃんとしたご祝儀袋。  こういうところだけしっかりしているのが桜井らしい。 「え……」  驚いたのが、その厚さだ。見るからに、厚い。  破けるくらいに。  まさか千円札ではあるまい、と覗いてみたら、1万円札がぎっしりつまっていた。  50枚。いや下手したら、それ以上あるんじゃないか。  北山は驚いて桜井を見た。しかし、桜井はこちらを一向に見ようとしないまま地面の草を見ながら、 「遺産がはいったんだ。」 と、言った。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加