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さすがに冗談かと思った。
「父親が亡くなって。バブルで投資とかなんやかんやで相当溜め込んでたみたいで、土地とか、いろいろあって。母親も兄弟もいないから、全部転がり込んできた。税金もかなりとられたけど。俺の生活だったら、たぶん一生、生きていけるくらい」
北山が唖然としていると、桜井あわてたように付け加える。
「ああでも、それは俺の金だから。さすがの俺も、それくらいは貯金あったし。それを引き出したやつ。今までこうして会っても、俺に合わせて貧乏飯しか食ってなかったろ。その詫び」
父親が死んだことも、そんな莫大な遺産が入ったことも初めて聞いた。
それはいいとしてーー桜井の金だろうが、父親の金だろうが、こんな大金受け取れない。
「こんな大金渡されるなら、当日出席してくれたほうがいい。招待するって言ったのにお前が……」
北山が言い返そうとすると、桜井は「行かないから」と言った。さえぎるような強い口調だった。
「俺、当日は行けないから」ともう一度、彼は言った。
「だから、愛華さんと幸せになれよ」
行かない。
「行かない」と言った。2回目は、行けない、と言った。
一体急にどうして突然、思いつめたようにそんなことを言うんだろう。
訊きたいけれど、桜井は食べ終わって地面に置かれている牛丼の器ばかり見て、こっちを見ようとしない。
北山のほうも、金を手にもったまま何も言えずにいた。
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