今夜はご馳走

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 好きな食べ物?  何故今更そんな質問をされるのか意味がわからなくて、答える意味がどれほどあるのか考えた。だけどもしもここで好きな食べ物を伝えておくと、今後飯屋に困った時、俺の好みで選べるかも知れない。  いや、待て。でもそうなると颯太の好物はなんなんだって話になる。俺が答えると颯太の好物だってどうせ知ることになるだろう。 「別に……、これといって無い」  颯太の好物を知りたくないわけでは無いし、颯太のワガママをつっぱねたいわけでも無く、ただ俺がそれを伝えたことで颯太が困ったり遠慮したりするのは、俺の信条に背く。どうせ颯太の事だから俺を優先したがるに違いない。  それだけは……、そんな窮屈だけはさせてやりたくないから。 「なんだよ~。ホント、本にしか興味ないんだなぁ。今読んでる本ってどんな本なの?」  言っても理解出来ないくせに聞きたがるんだから。 「原発の本だ」 「ふ~ん。次はどんな本買うの?」 「次? 遺伝子の本にしようかな」 「遺伝子?」  首を傾げ、颯太は「染色体?」と呟いた。 「よくそれが出てきたな。褒めてやろう」  へへっと笑い、颯太は俺の首にスリスリと頭を摺り寄せ、ぎゅっと抱きついてきた。 「西くん」  蕩けるような、甘えた声。  腰に手を回し、きゅっと抱き寄せると、颯太は可愛い顔を赤く染め柔らかく俺に口付けた。  颯太の口内に舌を割り入れ、その中を確かめるように犯して行く。ぬるぬるとした口内のあちこちを舐めまわし、焦らされた颯太の舌が俺の舌を追ってくる。それを交わしながら追いかけっこを繰り返し、颯太が僅か、腰を動かした事で俺は観念して颯太の舌を絡め取った。  どうしてこんなに颯太が愛おしいのだろうと不思議で仕方ない。  好きなんて感情は一種の勘違いだ。分かってはいるが、これは危険ドラッグのごとく俺を蝕む。あまつさえ、颯太は他に例をみない媚薬のような男。  こんなキス一つで、俺はあっけなく興奮を覚える。  指で颯太を悦ばせ、紅潮しているその頬に唇を寄せ、首筋を這い、胸の飾りを舌先で転がす。颯太の体をこんな風にしたのは俺ではない。颯太にこの快楽を教えたのも俺ではない。  今の颯太を作ったのは、そう……決して俺ではない。それでも今目の前で颯太が俺に感じ、俺を求め、俺だけを見つめているなら、過去をどうこう言うつもりはない。颯太がどんな思いで今俺の隣にいるのか、俺はちゃんと理解しているつもりだから。 「ぁ…ンッ、西く…!」  我慢出来ないよ  そう言って颯太が俺にしがみつき、早く、と耳元で呟くから、俺はその要求を飲んだ。  体が動くたびにバシャバシャと水は跳ね上がり、リンクするみたいに颯太が声を出す。こうやって啼くのは癖なのだろうか。颯太は声を我慢したりしない。躊躇もせずに喘ぐ。恥ずかしげもなく、”もっと”とせがみ、”気持ちいい”と言う。”西くん、好き”とキスをねだり、こちらが言わなくても腰を振る。  人並外れて、颯太はエロい。それがまた……たまらなく刺激的だ。
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