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「それで、やっぱり好きな食べ物は海老フライなの?」
風呂を上がり体を拭いている最中に、忘れていた話をぶり返された。
海老フライ
まぁ、ファンの間ではそれが一番有名な俺の好物だろう。確かに嫌いではないが……なんというか。
「まぁ、それも……そうなんだが」
別に海老フライが一番の好物というわけでもない。だが、嫌いとは言わない。寧ろ、好きな方だとは思う。だが、やはりそれが一番ではない。
「なんだよ~。教えてよ! 西くんのこと、もっと色々知りたいの」
バスローブを引っ張り出して纏う俺の腕を掴む颯太が、口を尖らせて見上げてくる。可愛すぎてどうにかなりそうだが、それを払いのけるように掴まれている手も払いどけた。
「うっせぇな。知ってどうすんだよ、そんなこと。腹の足しにもならねぇわ」
「なるよ、なる! 絶対になるから!」
意味不明だな。食べ物の話題だから腹の足しになるとでも思ってんだろうか。こいつ普通に馬鹿だからな。日本語を理解していない可能性が非常に高い。
俺はまだパンツすら穿いていない颯太を押しどけ、ドライヤーで頭を乾かした。そんな俺の背後で颯太は俺のバスローブの裾を引っ張りあげると、二人羽織のごとくモゾモゾと中に入ってきて俺の腹をぎゅっと抱いた。
「ねぇねぇ、教えてよー。教えてくんなきゃこのまま離れないぞー。コチョコチョしちゃうかもよー」
……なんなんだろうな、この可愛い小動物は。
可愛い。本気で可愛すぎて抱きしめて押し倒してキスして……なんて、そんなこと今は……しない。さっき、抱いたし。いや……でも。
「なぁなぁ、西く~ん。教えてよー。何が好きなんだよ~」
背中に頬を摺り寄せ、はだけているバスローブの前方からは、颯太の腕だけが見えている。
曇って見えにくい鏡を手で拭きながら、俺は構わず髪を乾かした。
「ちなみに僕はお刺身が好き! お寿司とか最高! ほら、次は西くんの番だよ!」
さらっと好物を言いやがったな。次のデートは寿司屋にでも連れて行けってことか? 高級志向だな。いいけど、別に。俺も嫌いじゃないし。
俺はまだ髪が乾き切っていない内にドライヤーの電源を落とすと、バスローブの腰紐を意地悪く縛った。
寿司に刺身か。確かにいいな。
なんか食いたくなってきたな。
「今から寿司食いに行くか」
ずんずん歩き出す俺に足元をもつれさせながら、颯太は「えっ!?」と驚いた声を出した。なんとかかんとかバスローブから抜け出すと、颯太はくるりと俺の前に回り込んできた。
そして。
「だったら、出前にしようよ!」
と、目を煌めかせた。
「で……、出前でいいのか?」
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