今夜はご馳走

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 カウンターに座って食うのが美味いんじゃないのか?  あ、そうか。  風呂上がったばかりで、またヘアセットするのが面倒なんだな。俺と違って颯太は髪をいじらないと割と地味だからな。  颯太は早速出前を注文すると、今夜はご馳走だなぁ~と冷蔵庫を開いた。自炊しない俺の部屋の冷蔵庫には酒とつまみくらいしか入っていない。  それでも生ハムを見つけてきっちり賞味期限を確認する。 「昨日買ったんだよ。まだ腐ってねぇ」  俺も颯太も料理をしない。やって出来ないことはないのだが、面倒なのでしない。仕方が無いから飯くらいは炊くが、米が一度切れると買い足すのに一週間から一ヶ月放置することもある。それくらい、自炊しない。  加藤みたいな料理好きが恋人ならこれ以上なく楽なんだろうが、残念ながら俺の恋人は俺以上に料理をしないと思われる。もはや期待もしていない。  半時間後、部屋に出前が届き颯太は犬のごとく玄関に走って行った。一緒に寿司を食べ、ビールを飲み、生ハムをつまむ。颯太は俺の膝を枕にしてテレビを見ている。そんな可愛い颯太の髪を撫でながら、俺はビールを飲み、そこら中に散らばっている本を適当に選んで読んだ。  いつものことだ。  颯太はその内アルコールの手伝いもあってかスヤスヤと寝息を立て始め、俺もつられるようにして眠ってしまった。  目が覚めたのは夜中だった。寒くて目が覚めた。  颯太は丸くなりながらまだ眠っていて、付けっ放しだったテレビはすでに砂嵐となっていた。俺はテレビと電気を消し、颯太を抱き上げると、寝室のベッドへと寝かせた。  颯太が好きでたまらないと、そう思う。何がそんなに好きなのか、言えと言われてもきっと答えることは出来ない。顔が好きとか、人懐っこいとこが好きとか、そんな単純なことじゃない。  こいつの全てを守ってやりたいと思うし、こいつのことを一番理解してやりたいとも思う。臆病なところも、それでいて勝気なところも、甘えん坊なところも、馬鹿なところも、すぐ拗ねるところも、疑い深いところも、遠慮がちなところも……  全部、全部、  大切に思うんだ。 「愛してる」  眠る颯太の額にキスをして、俺も隣に添い寝した。  颯太は誰にもゆずらない。もう誰にも触れさせない。  俺だけのもの。俺だけの颯太。 「おやすみ……颯太」
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