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「は……ん、ね、ねぇ! ご飯冷めちゃうよ」
俺の腕を捕み、一瞬解放されたキスの合間を縫うように、颯太は言った。
「あぁ、そうだな」
せっかく颯太が作ってくれた晩ご飯だ。冷めてしまったら勿体無い。
俺はもう一度だけキスをすると、押し倒した颯太の腕を引いて起こした。
「いただきます」
こうやって飯の前に手を合わせるなんてどれくらいぶりだろうか。
飯は全部美味かった。料理初心者にしては本当に頑張った方だと思う。天ぷらはあまりサクサク感がなかったけど、鯖の味噌煮は思ってる以上に美味かった。
どうやって練習したんだと聞くと、クックパッドだよ、なんて返答する。だけどしつこく問い詰めると、颯太は観念したように眉を垂れた。
「怒らない?」
そんな風に言うから、俺はどちらとも返事しなかった。
「雪村さんに……、教えてもらったんだ」
その名前を聞いて、正直な感想としては、安心した。
加藤の名前が出て来ていたら、俺はたぶん、怒らないにしても、その嫉妬ってやつを、そう……したかもしれないから。
これは全部、雪村さんの味が見本になっているのか。
そう思うとどことなく照れ臭いような気もして、俺は思わず笑ってしまった。
雪村さんのこと、恋愛的な意味で好きなわけじゃない。尊敬なんて恥ずかしくて公然と認めるつもりだってないが、たぶん尊敬してるんだと思う。
颯太が雪村さんと関係を持った時は、あり得ないくらい腹が立ったが、今はもうそれも過去だと思える。それは雪村さんのあのサバサバした性格のおかげだろう。それに俺たちのことを陰で支えてくれていることも知っているから。
”覚悟を決めろ。俺はお前を見てる”
そう言われたあの日の言葉は、きっと今も継続中で、俺の中でもずっと息づいている。
「あっそ。じゃ一週間通いつめたのか? あの人の家に」
「う……。で、でも! 何にも…し、してないからね! 料理以外、なんにも!」
そんな風に言われると疑ってしまうだろうが。
俺は颯太を引き寄せ、膝の上に座らせると、尻の割れ目に指を差し込んだ。
「人参とかぶち込まれてねぇか?」
「ば! 馬鹿じゃない!? あの人がそんな変態プレイするわけないだろ!」
颯太は失礼だよ!と言わんばかりに声を出したが。
「俺、あの人と寝たことねぇから知らねぇし。人参じゃなかったらキュウリか?」
「だから~!」
直接指で触れ、中指を体内へと侵入させると、颯太は頬を赤らめて俺にしがみついた。
「ココだけじゃねぇぞ」
出し入れさせながら囁くと、颯太は「何が?」と甘い吐息交じりにそう問うてきた。
「ココだけじゃない。この体全部……、その心も全部、俺だけのものだからな、颯太」
* * * * *
最高の誕生日を過ごした翌日。加藤が弁当箱を片手にやってきた。
全員分のオムライスに、ナスの豚肉のチーズ焼き、鯖の味噌煮、鯛とかんぱちの刺身。
「うまっ!」
思わず口をついて出た感嘆の言葉に、俺は隣に座る颯太の背中を叩いた。
「お前、もっと練習しろよ、おい!」
「う、う…う、うるさいな!! もう!」
それでも昨日食った手料理の味だけは、たぶん一生忘れることは無いんだろうけど。
ー 完 ー
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