幸せな私の幸せじゃないおもいで

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 暖炉の火が弱っている。見かねて枝を渡すと、嬉しそうに飲み込んだ。薄暗い部屋が、パッと明るくなる。  火に委ねていたスープからも、柔らかな湯気がたちはじめた。隣で揺り椅子に座っていた、ミリアおばあさまと目が合う。それだけで、自然と笑みが零れた。  少しの野菜と、更に少量のお肉。これが汁と一体になったら、塩で味付けして完成だ。 「はい、ミリアおばあさま。そっと持ってね」 「ありがとう、アンヌ」  一番に、大切な家族であるおばあさまに。それから、自分の分を欠けた皿に盛る。食べている時に火が消えては困るからと、もう少しだけ枝を放り込んでやった。  それでも、湯気も吐息もくっきりと見える。けれど、これだけ冷え込むのも仕方ないことだ。なぜなら、今日は雪が降っているのだから。  今現在、閉ざされている窓からは見えない。けれど、午前中、薪や枝を捜しに出た段階で、立派な雪が散っていた。だから今ごろは積もっているはずだ。  体に求められるままスープを啜る。喉からお腹へと流れ込む熱で、心も温かくなった。ここで再び、ミリアおばあさまと目が合う。ごく自然と笑みが零れ、何も言わずとも感覚を共有できた。  雪の日は特に、不幸だった私を思い出してしまう。だからこそ、今が世界一幸福だと歌いたくなるのだろう。     例えば、真っ先に思い出すのがパンプキンスープだ。鮮やかなオレンジ色をしていて、果実は滑らかなピューレ状になっている。  それから、大きな鳥の丸焼きなんてものもあった。鼻を擽る香ばしい香りに、艶やかな焼き色。一口かじりつけば、カリッとした皮と柔らかなお肉がハーモニーを奏でた。  他にも、幾つものご馳走が並んでいて、私は夢中で口に放り込んだ。今じゃ、味なんて覚えていないけど。
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