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父は王都へ帰っても俺から離れなかった。結局市井で父親と手を繋いで帰る姿を目撃されてしまった。
「じゃあ、すぐに仕事を片付けてくるから待っててね」
「わかったから」
「先にお風呂入ったらだめだよ!」
「早くしないと時間がなくなるぞ」
王宮に着くと、父は執務室へ飛んで行ってしまう。ようやく解放されたと息をつく。
父のことは嫌いではない。俺のことを可愛がってくれているというのはわかる。ただ、少し度が過ぎるというだけで
「俺も早く仕事終わらせねぇと」
執務室へ戻り、晩餐まで仕事を終わらせた。
「殿下、先ほどはありがとうございます。殿下のおかげで驚くほど早く政務を終えられました」
王族の食堂で父を待っていると、ジルベールに深々とお礼を言われた。
「父上から何かされなかったか?」
「いえ、それがものすごく上機嫌で何もありませんでした。それが逆に恐ろしくて」
ジルベールはブルリと震える。可哀想に
「それでは殿下、俺はここで失礼します」
「ああ」
ジルベールが出て行った後、すぐに父が食堂へ現れた。
「レイくんお待たせ」
「いえ」
「また口調戻ってる」
「皆の前ですから」
そういうと、父は周囲にいた使用人を見て指を鳴らした。パチンと音が鳴った瞬間、使用人達の姿が消えた。
「これで二人だけだよ」
「ちょっと待て!どこにやった!?」
「外に移動させただけだよ」
「口で言えばいいだろ!」
「口で言うより早いでしょ?それよりレイくん」
父は俺の隣に座ると、フォークを手に取り、料理に突き刺した。
「はい、アーンして」
「っ……」
俺は渋々口を開けた。肉料理が口の中に入れられ、旨みが広がる。
これ美味いな。ソースと肉の油が旨く絡み合って……
「あはははっ!やっぱりレイくんはかわいいね」
「んぐ……」
俺の表情を見て父が笑う。ムッとしながら、俺は父の口に付け合わせの野菜を突っ込んだ。やり返したつもりだったが、父はペロリと唇を舐め、妖艶に微笑んだ。どうやら喜ばせただけだったらしい。
「うん、おいしいね」
「……そうだな」
もう諦めよう。
父が満足するまで好きにやらせることにした。
食事はほとんど父に食べさせられ、風呂も二人で入浴する。王族専用の大浴場なので、狭いということはなかったが、父に全身洗われた。
「もうぜってぇやだ」
「なんで?レイくんが赤ちゃんだった頃は毎日私が洗ってたのに」
「もう赤ちゃんじゃねぇからだよ」
「レイくん、月が綺麗だよ」
「話を逸らすなー!」
大浴場は露天になっており、外の景色が一望できる。
「そう言えば、西部の地域で疫病が流行ってるんだって」
父は他人事のようにそう言った。
「聞いてる。すでに専門チームに調査をしてもらったし、薬の開発を指示している。俺もそれに参加するつもりだ」
こちらの世界で一番興味を持ったことは魔法薬学だった。生前の子供の頃の夢は薬剤師で、金がなくて早々に諦めた夢だったが、こちらの世界ではいくらでも学ぶことができた。すでに資格もいくつか取得している。
「レイくん、あまり無茶しないでね」
「は?確かに俺はアンタよりは弱いけど……」
「病気でも怪我でも、レイくんに何かあったら私は嫌だよ」
「……ああ。でも、俺はもっと外の世界を見てみたいから」
ヴィクたんを一目でいいから見てみたい。
「それって人間界も入ってる?」
「はぁッ!?」
何故バレた?
「レイくん人間界がある方角をよく眺めてるから」
「それだけで…?」
「レイくんはどうして人間界へ行きたいの?」
「そりゃ……人間界は魔界より広くていろんな国があっていろんな奴らがいるから」
「ふーん」
嘘は言ってない。人間界を見てみたいというのも本心だ。
「レイくんがどこか行くのは嫌だな」
「はぁ?行かねぇよ。行っても帰ってくるし」
「レイくんは人間界へ行きたいんじゃないの?」
「俺の行きたいは移住とかじゃなくて、旅行くらいの気持ちなんだが」
「なら、魔界から出て行かない?」
「俺が出て行ったらアンタのことが心配だ。大暴れしてあっちこっちで戦争を起こしそうだからな」
「うん、そうだね」
頷くな
「よかったぁ。レイくん、私は一生子離れできないと思うよ」
「する努力をしてくれ」
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