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ある日の深夜、眠っているとノック音で目が覚めた。誰かが寝室の扉をノックしている。
「ダリか」
「お休み中失礼致します。至急お耳に入れたい話がございます」
「どうした?」
「実は……陛下がアストラーゼ港で怪我を負ったと…」
「ッ!」
俺は手鏡を手に取り、父に連絡を入れた。あの父が怪我を負うなんていったい何があったんだ?
「レイくんッ!!」
「ッ!?」
すぐに繋がり父の大きな声が聞こえた。
「レイくんが私に初めて連絡してくれた!!レイくん元気?パパだよ!」
「どういう事だ?怪我をしたんじゃないのか」
「殿下、陛下は怪我を負われましたが元気ピンピンですよ」
「は、早く言え!」
「殿下が最後まで話を聞かなかったのです」
「レイくん私のことを心配してくれたんだ。ありがとう」
「そんなんじゃありません。父上、状況説明をしてください」
「レイくんが照れてる…。かわいい。怪我は大したことないよ。かすり傷だし、もう治っちゃった」
よかったと内心ホッとする。
「レイくん、アストラーゼ港で堤防が崩れたでしょ?」
「はい、把握しています」
「アストラーゼは重要な交易の場だからより強固な堤防を作ろうって話になって、昔結構なお金を出したんだ。今回の件を聞いてなんかおかしいなぁと思って、建前は水害のお見舞いで侯爵の屋敷に泊まっていたんだけど、私の家臣に調べさせたら人間の商船と密輸してたんだよねぇ」
「はぁ!?人間とですか?」
「うん、それで堤防は案の定突貫工事で、管理も杜撰だった。資金の横領、脱税を少しづつやって、人間の国の武器を仕入れてクーデターまで考えてたみたい」
クーデター!?
「侯爵は?」
「取り押さえたよ。殺すとレイくん怒るから」
「そうですか。クーデターをするつもりだったなら他にも協力者がいるはずです」
「うん、でも今出てる証拠からは侯爵の単独なんだよねぇ」
「そう、なのですか?」
「あぁ、前にもこんなことあったな」
父の目が遠くを見つめる。
「前というと?」
「私の暗殺未遂が起きた時」
「まさか」
「あの時も証拠がほとんど出なかったなーって」
『ボリス閣下とも懇意にしているとか』
俺はため息をついた。
まさか、父から王位を奪うつもりなのか?確かに魔界は強いものが魔王になる。だから父を倒せば民衆は叔父に従うかもしれないが……
「レイくん、私が留守の間変わりはない?」
「叔父上が突然訪問されましたよ」
「は?」
父が真顔になり、殺気だった。
「何か言われた?」
「いつもと同じです。ルディナと婚約しろと」
「絶対嫌だ。レイくんが結婚するなんて嫌だ」
子供の様なわがままを言う。
「ルディナとはしません。俺は叔父上を父だなんて呼びたくありませんから」
「そうだよね。レイくんのパパは私だけだ。レイくんは結婚なんてしなくていいよ。私が一生養うから」
無理があると思ったが父なら本当にやりそうだ。
「父上、俺に何かできることはありますか?叔父上が加担していたなら何か証拠があるかもしれません」
「ボリスは証拠なんて残さないと思うけど」
「侯爵の証言は?」
「状況証拠にしかならない。それに、ボリスは洗脳系のスキルを使うから、侯爵もボリスが関わってたのか覚えてないと思う」
そう、あの叔父は厄介なスキルを持っている。叔父は心の隙のある者を一定時間操ることができるらしい。なので父は王宮に勤めるもの達が洗脳を受けない様に訓練を受けさせている。俺も幼い頃に父から直接訓練を受けた。
「こっちの事は私が処理するからレイくんは心配しなくてもいいよ。終わったらすぐに帰るからね」
「はい。父上、怪我は本当に大丈夫なのですか?」
「レイくんが心配してくれてる……嬉しい。大丈夫だよ。見たことない武器だったから少し反応が遅れただけ」
「その武器とはどの様なものなのですか?」
「うーん。侯爵は銃って言ってたよ」
「えッ……」
「レイくん?」
「いえ、なんでもありません。気をつけて帰ってきてくださいね」
「うん、おやすみレイくん」
通話を切ると俺は顔を上げた。
「殿下…?」
「余計なことしやがって…」
静かにそう呟いた。銃なんてものが魔界で広がれば、治安が悪化するに決まっている。早急に手を打たなければ。叔父の手にはすでに渡っているのか?製造法まで知られたら面倒なことになるぞ……
いや、待て。もし、叔父が銃を所持しているとすれば、それは侯爵と結託していたという決定的な証拠じゃないか?見たこともない人間界の武器、父を倒せるかもしれない武器、それを叔父が試していないわけがない。
「フフフッ……」
「殿下、顔が怖いですよ」
「ダリ、目の前を飛び回る羽虫を叩き潰せるチャンスだ」
「ああ、なるほど。それはそれはよかったです」
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