転生先は推しの敵

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『父上〜、稽古をつけてくださ…』 父に体術の稽古をつけてもらおうと大広間を覗いた。金の髪に俺と同じ紫色の瞳褐色肌の男が笑いながら人間を嬲り殺しにしていた。大量の血がぶちまけられ、返り血まみれの男は俺に気がつくと振り返った。 『あー、レイくん!ごめんね、今お客さんが来てて。自分は勇者だとか魔王を倒すだとか、もう意味わかんないことしか言わないから、寝んねしてもらったんだ』 俺の父…アドルファス・ナイトウォーカーは最後に残っていた魔法使いらしき女も蹴り殺し、侍従から受け取ったタオルで返り血を拭くと俺を抱き上げた。 『パパと稽古がしたいの?いいよ。遊んであげる』 その間俺は父にドン引きしていた。いや、ドン引きだけで済んだ自分の精神状態にも驚いた。昔の俺なら気絶している。俺の精神は人のものではなくなってしまったということに、この時初めて気がついた。 ちゃらんぽらんな父の背中を見て、俺は座学、剣術、魔術、体術ありとあらゆる学問に励んだ。魔界と人間界は不仲……というか、しょっちゅう戦争をしている。それをできるだけまともに交流できるレベルにまで関係修復をしなくては、生ヴィクたんを拝めない。この目で見たい生の推し! そのためにはまず、人間の価値観というものをこちらが理解しなくてはならないだろう。 ゲームの中のレイドルフはたまに獰猛性が垣間見えることもあったが、すでに人の価値観というものを理解していた。 国を動かすには知識も不可欠だが、魔界の者は強者にしか従わない。王の息子であっても弱ければ舐められる。よって、ひたすら毎日鍛え続けた結果、自分でも見惚れるほどバキバキになってしまった。 「美味かった」 朝食を完食し、立ち上がる。 「身支度を整えましょう」 ダリが手を叩くと侍女達が部屋に入ってきて、俺の身なりを整える。この辺りは暖かい気候のせいか服はゆったりとした服が多く、あと露出も多い。例えるならアラビアンなテイストの服が多いイメージだ。 しかし、魔界にはたくさんの種族がいるため、伝統的な衣装は種族によって異なっている。 「ありがとう。ダリ、行くぞ」 「はっ」 身支度をしてくれた侍女達に礼を言い、ダリを連れて部屋を出た。 「今日の会議、俺の提出した案を絶対呑ませないとな」 「ご安心ください。すでに根回しはしております。殿下の案を蹴る者など生きる価値もない虫ケラ同然です」 「言いすぎだろ」 「真理ですよ」 「まぁ、用意しておいて損はない。俺を若輩者と甘く見る頭の硬いジジイは多い。貴族って奴らはどいつもこいつも叩けば埃が出る様なやつばかりで助かったな」 俺は口角をあげ、ニヤッと笑った。 この魔界にもある程度の法が存在する。それは人の世ほど厳しいものではないが、好き勝手にできるほどゆるくもない。
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