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会議室に到着すると、ダリが扉を開ける。入室した瞬間、何者かに抱きしめられた。
「レーイくんッ!」
「グェッ」
今世の父であるアドルファス・ナイトウォーカーだ。見た目は若いが実年齢は300を超えている。魔界の現魔王だ。父は俺をぎゅうぎゅうと抱きしめて、頬擦りをしてくる。
「レイくん、おはよう♡」
「おはようございます、陛下。苦しいので離れてください」
「パパって呼んでくれたら離れるよ」
「………パパ」
俺はもう50だぞ!
しかしこの人には何を言っても無駄なので早々に降参する。
「うーん、やっぱりいい響き。レイくん、今日も食べちゃいたいくらい可愛いね」
そう言うと父は俺の額と両頬にキスをした。これももう慣れた。俺が生まれてから毎日毎日毎日毎日この人はあいさつのキスをする。元々魔界はスキンシップが激しいのだが、この人は超がつくほどの親バカなだけだ。だが、怒らせるとダリよりも怖いので、俺も逆らえない。一見穏やかに見えるが、常に目が笑っていないのだ。
「さぁ、私のレイくんも来たことだし会議を始めようか」
「お待たせしてしまいましたか」
「ううん、大丈夫だよ」
「え?」
「一人ずつレイくんがいかに可愛いかプレゼンしてもらってたから、とても有意義な時間だったよ」
「恥ずかしいのでやめてください」
集まっていた高位の貴族達は皆げっそりしている。どうやらまた父の無茶振りに付き合わされたらしい。
席につき、父は上座に座る。会議が始まり、俺は早速発言をした。
「俺は魔界の各地に学校の創設を考えている」
今回、俺が提出した議題は都市部以外の学校の創立だ。魔界は人間界ほど学校を重要視していないため、学校がとても少ない。一般教養を学ぶ場を設ければ、治安も安定するだけでなく、有能な人材も増える。
「主要な都市だけでなく、地方にも学校を創設し、一般教養を学ぶ機会を子ども達に設ける。そのためには貴族であるお前達の協力が必要不可欠だ」
目の前の貴族達に毅然とした態度でそう告げる。父はさながら子供の参観日を見に来た親の様に、ニコニコとしながら頷いている。
「殿下のお気持ちはわかりました。しかし、より多くの子ども達にとなると、莫大な資金が必要となります。それを動かすほど学校創設が……その、必要なのでしょうか」
一人の貴族が父の顔色を見ながら恐る恐る意見する。彼は辺境伯だったな。地方に学校を作るとなれば、彼は無関係ではいられない。
「辺境伯、この王宮内でも字を読めない侍女や騎士がいるのはご存知か?」
「い、いえ」
貴族達全員が驚いている。知らないだろうな。彼らはプライドが高い。使用人達と雑談なんてしないはずだ。
「王宮内ですら文字を読めないものがいる。これは重大な問題だ。人間界に比べれば、魔界の一般教養の無さは火を見るよりも明らか。今から魔界全体の識字率向上、有能な人材を確保しなければ、いずれ魔界は人間界に呑まれるだろうな」
「そんな馬鹿なッ……!」
「少々話が飛躍しすぎでは…」
俺の発言に貴族達は動揺する。
「お前達は非力な人間が集まったところで我らには敵わないとそう思っているんだろ」
「実際そうでしょう。陛下のいるこの魔界は何者にも負けない」
「数は力だ。人間の数は我々よりもはるかに多い。数の分だけ新しい魔法、兵器、技術が生まれる。人間は日々進化する生き物だ。敵を侮って後で言い訳する様な無様を晒してからでは何もかもが遅い」
貴族達は皆押し黙った。
「幸い俺達は、人間とは違い長い時間がある。今すぐにでもこの計画に取り掛かるべきだ」
「そろそろ採決を取ろう。レイくんの意見に賛成の人は手をあげて」
ちなみに王に投票権はない。王が手を挙げれば、それはもう決定事項なのだ。
結果、半数以上が賛成に手をあげた。これで学校が作れる。
「じゃあ、この案は採用ってことで。レイくん、あとは任せるよ」
「はい」
予想より多くの票を集めることができた。根回しをしていたというのもあるが、少し危機感を持ったのだろう。貴族連中は自信家が多い。これを機に少しは人間というものに関心を示してくれるとありがたい。
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