転生先は推しの敵

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その後、会議は滞りなく終わり、父に捕まる前にダリと共に明かりが灯る城下へ繰り出した。 砂雪(させつ)の都と呼ばれる王都は活気に溢れている。魔界は太陽がほとんど登らず、一日のほとんどが夜だ。そのため夜を好む種族が集まるようになり、人間達はその者達をまとめて魔族と呼んだ。 王都である砂雪の都は、白い砂漠が広がる地域に都を構えており、建物は白い石造りで、俺が住む宮殿も全て白い。砂漠ではあるが、都の中には水路が張り巡らされており、水には困っていない。都をでてしばらく行けば海もある。何故このような場所に王都があるのか、それはこの白い砂漠が広がる地域の魔力濃度が異常に高いからだ。人間はここまで魔力濃度が高いと身体に様々な影響が出るので容易に入れない。一定の魔力を持つ人間でなければここまで来れないのだ。 「レイドルフ様、こんにちは!」 「キャー!レイドルフ様!」 「はぁ、今日も美しい」 魔界の王族は人間の国とは違って気軽に街へ出ることが可能だ。生まれてからこれまで父に稽古を強請ってきた甲斐があった。強さを示せば、民は勝手に尊敬してくれる。 皆に手を振りながら、目的地へ向かった。 「殿下は八方美人ですねぇ」 「民の好感度は大切だ。それにお前だって似たようなもんだろ」 「ふふっ。そうですね」 愛想はいい方がいい。前世で鍛え上げた営業スマイルが役に立ったな。 王都の一角にできた真新しい建物は俺が建て直させた孤児院だ。 「殿下!ごきげんよう!ようこそお越しくださいました」 「ああ、ニケか」 出迎えてくれたのは孤児院の院長になる三毛猫の女性。大きな猫が服をまとって二足歩行をしている姿はなんとも愛らしい。 やばい、頬がニヤける。猫吸いしたい。 思わず頭や喉を撫でたくなる衝動に駆られる…が、彼女はこう見えて立派なレディだ。いきなり触ればセクハラになるのでやめた。 「なかなか立派な建物じゃないか。中を案内してくれるか」 「はい、もちろんです!こちらにどうぞ!」 孤児院の中は片付いており、孤児院に入居したばかりの魔族の子供達が中庭で思い思いに遊んでいる。 ニケに渡された孤児院に関する書類に目を通す。 「何か必要な物資はあるか?」 「いえ、今のところは十分です!」 「人手はどうだ」 「子供達が皆聞き分けがいいので、人手も今のところは足りています。子供達が増えると状況は変わるかもしれませんが」 「そうか。何か希望があれば俺宛に書面を送ってくれ。俺が協力できる範囲で要望は叶えよう」 「ありがとうございます、殿下。潰れる寸前だった孤児院が今では見違えるほどに生まれ変わりました。これも全て殿下のおかげです。殿下は本当にお優しい方ですね」 「……いや、そんなんじゃねぇよ」 俺は子供達に視線をやり、小さく笑った。ニケはご謙遜をと笑ったが、本当に違う。これは未来への投資だ。元々ここにいた子供の数はとても少なかった。潰れかけの孤児院では養える数に限りがあるからだ。俺が孤児院を建て直し、職員を補填した。子供達もダリによそから連れて来させた。 魔界には様々な種族がいる。地方に行けば行くほど同族だけの村落が多く、とても閉鎖的になる。プライドが無駄に高くて、自分達の血筋に誇りを持っているのだ。 そういうところでは、稀に自分達と違う特徴を持つ子供が生まれると、迫害し村八分にする。赤子のうち始末されることもざらにある。ここにいる子供達はほとんどが村から追い出され、行き場をなくした子供達だ。 そして、隣にいるダリもそのうちの一人。ダリが迫害を受けた理由はダリが黒蛇だったから。ただそれだけのこと。けれど白蛇しかいなかった一族の中では大問題だった…らしい。 そもそも孤児院を支援したいと言い出したのはダリだった。 「殿下、ありがとうございます。私の願いを聞き入れてくださって」 二人だけで孤児院の中を自由に見学して回っていると、ダリが俺に頭を下げた。 「大袈裟に礼を言われるほどのことはしていない。そもそもただの慈善事業に俺は興味はねぇよ」 「それは薄々承知しておりましたが」 「いいか、地方の村落の出身者は歴史ある血族の末裔だ。そう言う魔族は優秀な能力を持つものが多い」 それにだ。ここにいる子供達は、一族から異端と認識されて追いやられた。そういうの実は特別優れた存在だったオチだろ!夢がある!もしそうだったら儲け物。道端でダイヤの原石を拾う様なもんだ。実際、ダリも有能な側近だ。しかもイケメン 俺はニヤッと笑う。 「ここにいる子供達は原石なんだよ。良くも悪くも将来どんな宝石に化けるのか楽しみだな」 「左様ですか。殿下が楽しそうで、それは大変よろしいですね」
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