転生先は推しの敵

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「最近お仕事ばっかだし」 俺の魔界をまともにする活動には、父の協力が必要不活だ。そのせいで父の仕事量が明らかに増えた。 「人間も全然遊びにきてくれなくなったし」 昔は勇者を名乗る奴らがよく王宮に来ていた。父はそういう奴らをわざと王宮に招き入れ、遊んでいた。しかし、人間界と交流するためには王族が好き好んで人間を殺してるなんてことは絶対あってはダメなのだ。なので父には内緒で人間が魔界に侵入したら直ちに強制送還と命令をだしている。 「レイくんもパパとぜーんぜん遊んでくれなくなったし」 それはもうそんな歳じゃないからだ 「お風呂にも一緒に入ってくれないし」 だからそんな歳じゃ 「一緒に寝たのなんてもう一ヶ月前だし」 「一ヶ月前でしょう!」 恥ずかしい話を掘り起こすな! 「そもそもなんで敬語なの?他の奴らには親しげに話してるのに。私より他の奴のことが好きなの?私のこと嫌いなの?」 「父親が息子にメンヘラ発動しないでください。他の者は臣下、貴方は魔界の王。敬意を払わなければ、他の者に示しがつかないでしょう」 「ここには私しかいないけど?」 「うっ……」 「はぁぁ。レイくんがそんなこと言うなら魔界なんかどうでもいい。いっそ全部ぶっ壊してやろうかな」 父の思考が危険な方へ向かっている。もう俺が折れるしかない。 「パパ」 そっぽをむいていた父の耳がピクッと反応し、俺の方を見る。 「アンタが嫌いとかじゃなくて、一緒に風呂とか寝るとか恥ずかしいんだよ」 「……そっか」 その瞬間、父に抱きしめられた。 何事だこれは 「これが思春期かぁ」 「ちげぇよッ!!!」 父は俺をぎゅうぎゅうと抱きしめてくる。 「あのな、俺はもう50だぞ!」 「うんうん、まだまだ小さいね」 「小さくねぇ!!」 父が俺の頭を撫でた 「レイくん、私にとってレイくんはずっと可愛い子供だよ。レイくんのやりたいことを止めるつもりはないけど、たまには私にもかまってよ」 「……」 前世の父親は絶対こんな事言わないだろうなと思った。絵に描いたようなDV男だった。いや、この父親も相当ヤバい奴ではあるのだが。俺への愛情は確かにある。 俺は父からたくさんのことを学び、父にたくさんの仕事を頼んできた。そして魔界は父の理想とは真逆の方向へ進んでいる。父にそれを止められたことはない。俺は父に甘えていた。俺は父に何も返せていない。 「わかった」 「なら、一緒に寝てくれる?」 「あ、ああ…」 「お風呂も一緒に入ってくれる?」 「うっ…わかったよ」 「食事も食べさせていい?」 「あー!なんでもいいから帰るぞ!」 「あっ、待ってレイくん。手繋いで帰ろう!」 「はぁッ!?」 現在、俺は父と手を繋ぎながら誰もいない静かな砂漠を歩いている。父はさっきからずっと鼻歌を歌い、上機嫌だ。この状態で王都に入りたくない…。 「レイくん、星が綺麗だよ」 「そうだな」 確かに砂雪砂漠の星空は驚くほど美しいと有名だ。 「私は星が綺麗だなんて初めて思ったよ」 「え?」 「レイくんといるからこんなこと思えるんだね。正直、私は子供なんて全然興味なかったんだけど」 「なんだ、昔の話か?」 父から昔の話を聞けるチャンスだ。 「ある日突然子供ができて、心底どうでもいいと思ってたんだけど、レイくんは私を見て笑ったんだよね。私を見て笑う子供なんて初めてだったから興味が湧いてきて、気がついたら毎日レイくんと遊んでたんだ」 「全然覚えてねぇ…」 「そっか。残念だな。レイくんのファーストキスは私なんだよ」 「おい、ふざけんな」 いや、薄々そうなんじゃないかとは思っていた。このスキンシップの激しい父親が何もしてないわけがない。 「ずっと気になってたんだが、母親は?」 「母親?」 父は首を傾げる。俺は生まれてから一度も母親の話を聞いたことがない。 「え?いや、だから、俺を産んだヒト」 「あー、そういえばそんなのもいたね」 そんなの呼ばわりかよ 「確かすっごく変な女だったなぁ」 「アンタに変って言われる奴がいるのか」 「そこら辺で出会って、種付けしたらレイくんができた」 いろいろツッコミを入れたいのだが、話が進まないのでやめておく。 「それでレイくん産んだ後、地位とか親とか興味ないからってどっか行っちゃった。レイくんと同じグレーの髪の女だったよ」 「へぇ…」 「レイくんはママが欲しい?」 「え?」 父の無駄に整った顔が覗き込んできた。 「レイくんが欲しいなら連れてくるけど」 「別にいい」 生まれたばかりの子供を父に丸投げする様な女だ。きっとまともではない。 「親はアンタだけで十分間に合ってる」 「それって私だけが好きってこと?」 「どういう翻訳?」 父は嬉しそうに微笑む。 「私もレイくんだけが大好きだよ。レイくんのためなら世界征服もしてあげるよ〜」 「いや、やめろ」
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