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私は早く屋敷にたどり着くことを祈りながら、リシャルト様に手のひらをかざし続けた。
馬車に乗っているこの時間さえも活用して、治癒の力を使う。
私に出来ることはそれだけだ。治癒の力を持って生まれたことに、これほど感謝したことはない。
そして、治癒をする時にこれほど焦ったことはなかった。
今まで治癒してきた相手は、赤の他人の兵士だったから。
今治癒しているのは、赤の他人でない。
私の大切な……旦那様だ。
――そういえば……。
ふと、私の頭に階段から突き落とされた時のことが思い起こされた。
気がつけばエマ様の姿が見えなかったが、彼女はどこにいったのだろう。
まさかとは思うが、逃げたのだろうか。
――私、エマ様のことを許せないかもしれない。
自分に紅茶をかけられた時は、そこまで怒りなんて感じなかったのに不思議なものだ。
もし、このままリシャルト様が目を覚まさなかったら。
もし、このまま死んでしまったら。
きっと私は、一生エマ様を許せない。
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