40・宰相の妻は夫を連れ帰る

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 私は早く屋敷にたどり着くことを祈りながら、リシャルト様に手のひらをかざし続けた。  馬車に乗っているこの時間さえも活用して、治癒の力を使う。  私に出来ることはそれだけだ。治癒の力を持って生まれたことに、これほど感謝したことはない。  そして、治癒をする時にこれほど焦ったことはなかった。  今まで治癒してきた相手は、赤の他人の兵士だったから。  今治癒しているのは、赤の他人でない。  私の大切な……旦那様だ。  ――そういえば……。  ふと、私の頭に階段から突き落とされた時のことが思い起こされた。  気がつけばエマ様の姿が見えなかったが、彼女はどこにいったのだろう。  まさかとは思うが、逃げたのだろうか。  ――私、エマ様のことを許せないかもしれない。  自分に紅茶をかけられた時は、そこまで怒りなんて感じなかったのに不思議なものだ。  もし、このままリシャルト様が目を覚まさなかったら。  もし、このまま死んでしまったら。  きっと私は、一生エマ様を許せない。  
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