1・お飾り聖女は思い出した

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1・お飾り聖女は思い出した

「皆を癒す象徴たる聖女のお前が倒れるとは何事か!」  頭の上から降ってきた男の怒り声に、私ははっとまぶたを開けた。  目に入ったのは白い天井。ほんのりと、薬の匂いがする気がする。  視線を横へずらせば、横になっている私を不遜な態度で見下げる男が1人。  その声のうるささに、私は思わず不快に眉を寄せた。 「なんだ、その顔は! それがこの国の王太子である俺にとる態度か!」  どうやら男の気に触ったらしい。不満げに騒いでいる。  ありがたくないが、彼のその騒がしさのおかげで私の頭もはっきりしてきた。  私は、この国の聖女と呼ばれる存在だった。孤児として街でさまよっていた所を教会に拾われ、あれよあれよという間に聖女として祭り上げられた。名前は無い。拾われてから16歳の今まで、ずっと『聖女様』と呼ばれてきた。  この国では珍しい黒髪黒目の自分の容姿は、ずっと忌み嫌われるか畏れられてきた。この見た目で生まれたのを憎らしく思ってきた。だが、前世を思い出した今、異様にしっくりくる。    前世……。そう前世だ。たった今夢で思い出してしまった。
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