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それなりの高さがある階段から、まるでサスペンスドラマのように転がり落ちた。私を庇うような体勢だったせいでまともに受け身も取れなかっただろう。階段から落ちる間にどこかで頭もぶつけたようだし心配だ。
――これじゃまるで、あの日みたい。
私は10年前のあの日のことを思い出していた。
リシャルト様を助けたあの日。
フォルスター公爵家の領地があるのは、隣国との境界からほど近い場所だった。
今はもうその隣国との戦争は終わっているが、当時は戦闘が激化していたときで、リシャルト様もそれに巻き込まれてしまったようだった。
幼いリシャルト様は敵兵に切りつけられ、大きな怪我を負っていたのだ。
それを治したのが私だ。
――お願いだから、治って。
あの日も、同じように願った。
大怪我をした少年が、早く良くなりますようにと。
ただ一心に、願った。
あの日の自分と、今の自分の気持ちが重なる。
「リシャルト様……。お願いです。目を開けて……」
繋いだリシャルト様の手を、私はぎゅっと両手で握りしめた。
その時だ。
握りしめたリシャルト様の指先が、ぴくりと動いたのは。
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