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僕にはスーパースターNoelがいる。この部屋から出られない僕にとって、彼の存在だけが僕の喜びだった。
世界中が注目するNoelだけれど、ほら、彼はすぐそこにいる。この僕の部屋に。
「ああ、Noel。本当に君は素晴らしいよ。今日も先月のアリーナのステージの録画を見て過ごしてたよ」
「何を言ってるんだ。君は」
「何って、本当に素晴らしかったよ」
「ノエル、目をつぶって、俺の手に手を合わせてごらん」
Noelは僕のことをノエルと呼ぶ。
僕は彼に言われたとおり、目をつぶって彼の手に自分の手を合わせた。
「ノエル、君だってNoelなんだよ」
「………」
「あの日のことを忘れたのかい?」
「あの日…」
そうだ、僕たちは二人で一人のNoelという存在だった。僕はいつもそのことを忘れてしまう。
彼が初めて僕の前に現れたのは今から6年前、僕が13歳の頃だった。
当時の僕は家庭にも学校にも居場所がなかった。家では優秀な兄のことしか見ていない両親にまったく相手にされず、学校ではその兄といつも比較された。
あの13歳の誕生日も、誰にも祝ってもらうことなく、一人、部屋で膝を抱えているだけだった。
そんな僕の前に突如現れたのが彼だった。
「泣かないで、オレが一緒にいてあげる」
その時から、僕たちは二人で一人の存在となった。
彼と一緒に家を飛び出した僕は、すぐ事故にあってしまったけれど、僕たちを轢いた車に乗っていたのが、今の事務所の社長だった。
社長は面倒見のいい人で、行き場のない僕たちに居場所をくれた。
社長のオフィスを覗いた時にアーティストたちと口ずさんだ僕たちの歌声をとっても気に入ってくれたのが今のNoelがあるはじまりだった。
もともとは気弱な僕だったけれど、彼と一緒だと思えば何でもできる気がした。
歌を歌っているときはすべての嫌なことも忘れることができたし、ステージのライトを浴びるのも気持ちがよかった。
そう、僕たちNoelに何も怖いものなんてない。
今や世界になくてはならないスーパースターなんだ。
だけど…
僕は最近意識を失うことが多くなってきたような気がしている。記憶が欠けている時間もあるのではないか? どうしたのだろう。何かの病気なのだろうか。
僕は不安でたまらなくなった。
大きなステージの前に不安が募る僕をいつも力づけてくれる彼。
僕は、最近の自分の症状の不安を彼に告げた。
彼はいつものように力づける言葉をくれるはずだ。そのはずだった。
「ふふっ。おまえ、自分の姿をよく見てみろよ」
彼はあざけるように笑いそう言った。
「自分の姿?」
僕は愕然とした。こんなことって?
僕の身体は透けてきているではないか!?
「Noel、どうしてこんなことに? どうしたらもとに戻れるんだい? 助けて、Noel!」
僕は必至で彼に助けを求めた。
が…
「ノエル。おまえはあの13歳のバースデーの夜に自分自身を消したんだよ」
「何を言ってるの? Noel?」
「オレがおまえの代わりになってやったんじゃないか。弱いおまえのかわりに」
頭の中が真っ白になった。
それと同時に僕の身体はどんどん薄くなっていき、姿なきものだった彼は完全に一人のNoelとなった。
そうして僕は消えていった。
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