【逢ひ秋】

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〈解説〉 かの平安時代に、絶世の美女という噂の小野小町が詠んだ和歌がありまして、それは次のような意味です。 「桜の花の色は、むなしく衰え色あせてしまった、春の長雨が降っている間に。ちょうど私の美貌が衰えたように、恋や世間のもろもろのことに思い悩んでいるうちに。 「ふる(「降る」と「経る」)」、「ながめ(「長雨」と「眺め=もの思いにふける」)」が掛詞。」 そして、時は現代。ある女性が(絶世の美女というわけではありませんが)小野小町同様に物思いに耽っています。 ああ、秋の空はすぐに変わっていく。そして変わっていくのは空だけではなく、山も次第に色づいてきた。(そしてそれは、あの人の対応も同様である。)そんな折、乾いた風(=そっけない対応)が吹いて紅葉の葉(赤い花=恋心)が揺れ、哀愁も漂う。 秋の空はまたも変わり、雨雲が空を覆っている。(それは、あの人が私に“飽き”てしまったことを暗示しているかのような暗雲である。これは、“虚ろ”という言葉からも、彼の対応が空っぽであることが読み取れる。)そして葉の色の変化は、山だけでなく街にも訪れた。はらりと降った乾いた雨が銀杏の葉を散らせていく。(そして恋が散った(彼に振られた)私の涙もはらりと落ちる。愛に執着する気持ちが漂う。) 街ゆく人の服装は少し厚着になってきた。ああ、衣替えの季節か。できることなら、私は心替えをしたい(=とりかえばや)ものだ。なぜならば、行き交う手紙や逢瀬の間隔は前から虚ろ(ほとんどなくなっていた)にも関わらず、また、彼の感覚も虚ろ(ほとんど思い出せない)にも関わらず、未だに彼を想ってしまっている。ああ、小野小町が生きた平安時代に書かれた『とりかへばや物語』ではないが、私もこの心を取り替えて、彼のことを忘れられたらなぁ。 私の心は鬱になっていく。私はわけもなく化粧をして、街を行く。それは、あてもない愛を渇望する故か。雨が降って乾いた道には、枯葉が落ちており、それはまるで私の失意のようである。ああ、やっぱりまだ彼を忘れられない。哀愁が漂う。愁いが佇み、ずっとここにある。あい(愛する、哀しむ、逢いたい)気持ちが次第に膨らむ。 小野小町ほど美女ではないが、彼女が詠んだ歌に共感できるところはある。ここで一つ、返歌でもしようか。私がこれを機に彼のことを忘れて“変化”する(新しい道を歩み始める)ために。 「桜の花の色は、むなしく衰え色あせてしまった、秋の長雨が降っている間に。しかしそうではあるが、私があなたを想う心は長雨が降っている間(逢瀬が無かった辛い間)さえもずっとありました。」
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