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「うぅむ。にわかには信じられませんな……」
皇家専属の医師組織『不沈の医師団』のリーダー……老医アダム・レヴォーグは何事をなく病室のベッドですやすや眠るマックスを見て腕を組んでいた。
「ミーナさん…貴女は本当にマックス皇子に熱湯を掛けてしまったのかね?」
「間違いありませんの!アダム先生!。眠たそうでしたから皇子を速く寝かそうと思い……!そしたら熱湯が手に掛かりポットを皇子の方に飛ばしてしまって!」
ミーナは泣きながら屈んだ。
彼女が嘘をついてる可能性は低い……。
実際ミーナの右手は火傷を負っていたので応急処置を済ませたし、マックスの身体も上半身の中部のあたりから下半身の太腿に掛けてまで確かに何らかの液体を被り濡れていたのは確かだ……。
―――――では、何故……。熱湯だとするなら何故皇子は火傷一つ負っておらんのだ……。
80年近く生きた老医アダムは何人もの生命の誕生と何人もの生命の終焉に直面してきた。
無論様々な病にも……だがその彼にすらマックスの今の状態を医療的に現す言葉が出てこない―――――。
何故ならマックスは火傷何てそもそも負っていないのだ。
この事実をどう皇帝陛下と女王陛下にお話すればよいのか。
80年生きた彼の頭にも分からなかった。
「マックス!」
「大丈夫なの!?マックス!」
程なくし息子の危機を伝えられ公務を切り上げた二人が駆け込んで来た。
「むにゃ……。あ、パパ!ママ!」
いつもは土日か祝日しか会えない両親に久々に会えてマックスは大喜びだ。
「おぉ!無事だったんだな!」
「……心配したわ。貴方が火傷をしたと聞いて無事で良かった……」
アーデルトラウトはぎゅうと我が子を抱きしめ、頬にキスをした。
「アダム先生。ミーナ……特にマックスに火傷は見受けられないが……?。本当に熱湯を?」
疑惑を感じたゴッドハルトが二人へ問うと二人はゆっくりと首を縦に振った。
「陛下。アダム皇子が火傷したと目される時間帯の給水室の防犯カメラの映像を入手致しました。今パソコンに映します」
帝国近衛兵の内の一人でボディーガードや運転手等の雑務を務めるジャック・ゴズリングがSDチップをパソコンへと入れ件の動画が再生される。
「何と……」
確かにミーナが手を振り払った際ポットの熱湯が彼に掛かってるのにマックスは何事もなくスヤスヤと眠ったままだ。
「陛下!女王陛下!本当に申し訳ございません!」
ミーナは泣きながら深々と頭を下げた。
「いや……マックスが無事だから君の行動は不問にしよう」
「でも……!」
処遇に納得がいかないのか意見を言おうとしたミーナにアーデルトラウトが優しく手を添える。
「お顔を上げてミーナ。私もゴッドハルトの意見に依存はありません。マックスは無事だから貴女は気に病まなくて大丈夫ですよ。ただ何故この子が無事だったのか……。そこが気になるところです」
「ありがとうございます……両陛下の寛大なお心遣いを胸にしまわせて頂き二度とこのような事が起きないよう精進致します!」
「うむ。君の仕事に戻りなさい」
「はい!」
ミーナは元気よく返事すると心を入れ替えたような顔付きで一礼し部屋を出ていく。
「哀しいものだなアディ(ゴッドハルトがアーデルトラウトに使う愛称)。この子が無事だったのに我々は素直に喜べぬ」
「えぇ貴方。私は何だか胸騒ぎがしてなりません」
「その胸騒ぎ合っておるぞアーデルトラウト」
「長老!」
思わずゴッドハルトは声を挙げた。
赤い長髪に、銀色の目、しわくちゃな顔、皆の前に現れたのは5世紀前に産声を挙げたヘレンフォイア帝国設立時から国家の内政に携わって来た魔女の一族……。
ヴィプカ家の15代目魔女にして帝国への助言を行う魔女ヴァネッサ・ヴィプカだった。
ゴッドハルトも幼い時はヴァネッサにおしめを取り替えられたり皇帝としての矜持を教えられた者である。
皇族にも謙った態度ではなく対等に対する為『恐れ知らずの魔女一族』の異名も持つ。
「ゴッドハルト。その子は危険じゃ。その子にゃ膨大な魔力が取り付いておる。今すぐにでも山や外国に捨てるか、殺せ」
「待ってくれヴァネッサ。この子は俺達の子だ。それに科学が発達したこの時代に魔力なんて……馬鹿げている」
「そうですわ。ヴァネッサ。マックスは私達の愛する子なのです。そんな恐ろしい事がどうして出来ましょう?」
「カカカカッ!ゴッドハルト、アーデルトラウト貴様らそれでも国を担う為政者か!」
「貴様!陛下と女王陛下になんて物言いだ!」
ジャックが銃を突きつけるもヴァネッサは全く動じない。
「撃つなら撃て、ただし一発で即死させるべきじゃ。即死させなくては死ぬまで内蔵は生きておる。儂はお前に苦痛を与え道連れにしてやるぞ」
「抜かせ、与太話の魔女のババアめ」
カチャリと引き金を少し引かれるが変わらず彼女が動じる様子はない。
「今宵、集会を開けゴッドハルト。可能な限り大臣達も集めてのう。議題はマックスをどうするかじゃ。帝国の安寧と秩序と発展に関わるぞ」
それだけ言うとヴァネッサはクルリと背を向け「近頃の若いもんはスマホやらパソコンやら魔術の真価を知らん」と愚痴りながら場を跡にした。
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