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急に倒れた春風を高杉はサッと支える。
「はあ。九一。何めんどいものを拾ってきやがった。」
「拾っていない。連れてきただけ。」
「その屁理屈こねるクセはやめろ。とりあえず、玄瑞呼んでこい。俺は剣術は得意だが医学知識はねェ。」
無言で頷くとパタパタ走っていく入江を眺めながら、高杉はそっと姫抱きにする・・・・、わけがなく片手に担ぐと、空き部屋に寝かせた。
「晋作ー今度は何?」
「玄瑞!こいつだ。突然倒れやがった。」
久坂は本業ではないにしろ藩医ではある。高杉はさっぱりわからないが。
「疲れただけでしょう。」
「なんだよそれ。」
「それにしても珍妙な格好だな。」
「…授かりものかもしれん。」
「俺はこんなでけえガキ拵えた覚えは…ねえぞ。多分。」
「はっきり言えないのが残念だな。僕もはっきりは言えないが。」
「…僕も心当たりがあるが晋作ほどではない。」
「でも歳は僕らと同じくらいだな。盛牛が幼い頃に襲わない限り血縁関係はないだろう。」
「おい玄瑞、失礼なこと言いやがったな。」
「事実だな事実。」
いつものように言い合いに発展していく双璧を入江はやや蚊帳の外でみていた。
この言い合いを武力を持って止めるのが今外出中の男だが、物騒なので呼びに行きたくないし、呼ぶまでもない。というかめんどくさい。
それよりも外出中の男がこの少女を認めるか、が問題だった。
勝手に入江が連れてきてしまったにしろ、高杉ですら信じていないだろう。
本来、自分も含め人を早々信じられる程お人好しではない。し、警戒心も弱くない。
4人の中で飛び抜けた警戒心を持つのが、外出中の男だ。
最悪の場合…切り合いなるかもしれない。
でも、友情も、この少女も入江は手放したくなかった。
この少女が姿を表したときに聞こえた言葉を…信じたいから。
『ありがとうございます。頼みましたよ、子遠。』
そんなことを言われたら…、拾うしかなくなる。
空耳なんて思いたくないから。今の弱い自分には、空耳すら頼ってしまいたくなるから。
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