2人が本棚に入れています
本棚に追加
目覚めた由美香は、ベッドの隣にある勉強机を見た。そこには見覚えのある小箱と冊子が置かれていた。
小箱の蓋は無い。すると、視界の端で何かがチカリ、と光る。
置きっぱなしにしていた筆箱の上に、ぼんやりとした光の塊が座っていた。
サイズはピンポン玉と同じくらいで、注視してみると手や足があるみたいだ。
頬をつねってみたら、ちゃんと痛かった。由美香は肩を落とす。
「……現実か」
冊子は説明書みたいだ。ざっくりと目を通してみる。
ページを捲って、由美香はあれ? と不思議に思う。八ページ中七ページは白紙で、ラスト一ページだけ、それも手書きの箇条書き三つしか説明がない。
・ステショナリーフレンドは、文房具を住処や移動範囲とする生物です。その正体は未だ謎に包まれています
・所有者以外の人には見えません
・注意事項はただ一つ、適切に餌を与えること。詳細は裏表紙へ
「へえ、私以外には見えないんだ。イマジナリーフレンドみたい」
最初は気付かなかったが、裏表紙に細かい文字で何か書かれている。
由美香は目を細め、また箇条書きを睨んだ。
餌について
・ステショナリーフレンドはお腹が空くと所有者に向かってアピールをします(ジャンプ、手を大きく振るなど)
・餌はシャープペンシルの芯、水分としてボールペンの黒インクを与えてください
・間違っても、赤インクだけは与えないようにしてください。お客様へ多大なる被害を及ぼします
由美香は小さな光へ目線を落とす。それは筆箱を登ったり降りたりして遊んでいる。
これから支度をしなければならないし、実験がてら学校に連れていってみたい。けれど、もし他人からステショナリーフレンドが見えていたら。
由美香は十秒考えて、今日は一旦留守番させるか、という結論に至った。
「こっちの使い古した筆箱置いていくから、少しお留守番しててね」
ステショナリーフレンドは、由美香の言葉に小さく頷いた。早速筆箱のファスナーを、そりを引くように動かして楽しんでいる。
(意外と可愛いかも)
由美香はドアノブを捻り、奥に押した。
最初のコメントを投稿しよう!