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「あれ、どうしたの?」
帰宅すると、なんとステショナリーフレンドが筆箱にもたれ掛かるようにして倒れていた。光も心做しか弱くなっている。
力を振り絞って、小さな手を上下に動かしている。その様子から、あっと思い出した。
「お腹が空いたんだ。ごめん、えーっと、シャーペンの芯だっけ」
HBの芯をケースから取り出し、ステショナリーフレンドの目の前に置く。
すると、ステショナリーフレンドは起き上がり、芯をポリポリ食べている。人間はポテトチップスを差し出されたら、喜んで食べる。それと同じようなことなのだろうか。
(あとはステショナリーフレンド―――これからは略してステフレと呼ぼう―――はインクを飲むんだよね)
インクチューブからインクを取り出すわけにはいかないので、取り敢えず黒インクのボールペンをステフレに向けた。
……なんと、ペン先に口をつけてインクを飲んでいる。
「それで飲めるんだ。哺乳瓶みたい」
齧られたシャープペンシルの芯の断面は、芯を真っ二つに折ったときと大差ない。ボールペンで何か書くふりをして、ステフレに水分を与えることも可能。
何より、所有者以外の人間はステフレの存在を知らないし、知ることもない。
「学校、来る?」
ステフレが学校を認識しているはずはないが、肯定しているのかまた頷いた。
やがてお腹いっぱいになったみたいで、ボールペンを枕にして寝てしまった。黒い目はシャープペンシルの芯よりも細く、はっきりとしない。腹部の光は膨らんだり萎んだりしている。呼吸をしているようだ。
「明日がちょっぴり楽しみだなあ。……そういえば、説明書」
机の隅に追いやられた説明書を取り、再度読む。何故、赤インクは与えたら駄目なのだろう。
黒インクを飲ませた状態を見る限り、ステフレの光の色に影響を及ぼすわけでもない。何かを排出することもない。
(ステフレは赤インクが嫌いだから怒りますよー、とか?)
お休み中のステフレが寝返る。芽生えた疑問はすぐに摘み取った。
(赤ペンをあげなければ関係無いか。気にしない気にしない)
由美香は、捨てた疑問よりも明日の楽しみにワクワクしておくことに決めた。
ステフレはまたまた寝返りを打ち、うつ伏せになる。
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