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由美香は制服の胸ポケットにステフレと消しゴムを入れた。文房具があればステフレは落ち着けるかな、と由美香なりに考えたからだ。
五月上旬に幽霊ごっこが開始したので、二年生に上がってからは殆ど一人で登下校をしていた。
あれから二ヶ月。ようやく由美香に寄り添ってくれる友達ができた。
今日も教室は賑わっていた。勿論、由美香抜きで。
それでも、ステフレはそんなのお構い無しに丸くなった消しゴムを転がして遊んでいる。なんと微笑ましい光景か。
(雪だるま作っているみたいだなあ。可愛い)
自然に笑みが溢れる。親戚の子供を預かって世話しているみたいだった。
授業中は先生の解説を聞きながら、ステフレをチラチラと観察していた。
お腹空いた! お腹空いた! ステフレが跳んでアピールする度に、ノートや教科書で隠してシャープペンシルの芯を与えたり、ボールペンの黒インクを飲ませたりした。
満腹になったら、由美香にしか聞き取れない寝息を立ててお昼寝をする。そんなステフレに、由美香は夢中になっていった。
(私、この子のお陰で幸せ)
そう思っていた。そう、帰りのホームルームまでは。
問題は放課後だった。先生が職員室へ移動したのを確認した刹那、「幽霊ごっこの主犯格」が由美香に詰め寄る。
由美香は唖然としていた。だって、今もステフレに構っている最中なのだから。
「あれ、近藤さん。どうしたの」
「何を偉そうに。それはこっちのセリフよ。あたしはあんたを幽霊役に任命してあげているの。どうして全部無視しやがるのよ!」
由美香はキョトンとしていた。無視した記憶など無い。ずっと、ステフレと遊んでいただけだ。
「私は何もしていないよ」
「ああああ、あたしに口答えまでするの!?この身の程知らずが!」
ガチでキモい。休み時間、一人で何かと話していたしね。幽霊は自分が幽霊って自覚無いんだな。とっとと成仏しろ。
そんな取り巻きの声が鼓膜を伝わり、由美香の全身に広まる。そして、その声達はよってたかって由美香をいじめる。
まだそれは耐えられた。だが、取り巻きの中に水琴が居たことを、由美香はちゃんと覚えていた。
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