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「咲良のお母さん、凄く優しそうじゃん。親子喧嘩とかしなさそうだね」
私が何気に訊くと、咲良は少し苦笑いして切り出した。
「里親なの」
思いもよらぬひと言に私は一瞬戸惑い、上手い言葉が咄嗟に思い浮かばなかった。
「ごめん、ビックリしちゃったよね?私、産みの親の顔を知らないんだ。施設でずっと育って、小一になる前に今の親ができたの。茜が言うようにほとんど喧嘩はないかなあ。茜がママと喧嘩した話、たまにするでしょ?なんか、親子だなってちょっと羨ましい気持ちになっちゃう。でもそのあとですぐ、うちの両親にごめんなさいって思うんだ。本当の子どもみたいに思ってくれてるってわかるから」
私は、もうずっと前に母子家庭だと咲良に話していたけれど、咲良の家庭事情は全く知らなかった。事情がある家庭という共通点は私と咲良の絆を強くしたと思った。
私たちが三年になろうとする春休み、演劇部がミュージカル部に変更になるとの説明があった。
私は誰にも相談せず、退部を決めた。
「ちょっと!茜!!
なんで、私に何も言わずに退部届け出したの?!」
珍しく大きな声を出した咲良を見て、私は思わず吹き出した。
「ちょっとぉ、何が可笑しいのよ?!
こっちはマジで怒ってるんだからね!!」
咲良は頬を膨らましたあと微笑んで、私を抱き締めた。
咲良の柔らかく大きな胸とまだ冷たい春風に晒された頬が私の身体に密着し、走ってきたせいで崩れたポニーテールが私の鼻をくすぐった。
私の鼓動が高鳴る。咲良に聴こえていたら、どうしよう……。
咲良が身体を離し、私は我に返った。
「ごめん」
私は何とか言葉を絞り出した。
「私の方こそ、ごめんね。茜の気持ちに寄り添えてなかった」
咲良は、私が発した言葉の真意に気づいていなかった。
私にとって、咲良は……思わず声に出しそうになって慌てて言葉を飲み込んだ。
ダメだ、それだけは。
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