1/14

8人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ

「ただいま」 「おかえりなさい」 こうやって首の長い女性が待つ家に帰るのも、かれこれもう一週間も経つ。首を長くして待っている女性がいると聞けばいいが、あくまでも首が長くなってしまった女性である。見慣れてしまえばなんてことない。人の形をして血の気のない青白い顔をした、首がかなり長い女性なだけである。ポルターガイストや呪いや祟りなどとは無縁だ。 「あれからどうなんですか?仕事」 一応上司である田西のポンコツ具合を雪絵に語ったのはつい先日のことだった。雪絵自身も生前は商社マンとお付き合いしていたこともあって、親身に話を聞いてくれた。アドバイスをするでもなくただ話を聞いて頷いてくれていた。その事が純平にとって何よりも心地よかった。 一人暮らしは自由気ままな部分があるだろう。しかし、何かがあって話したい時などは話し相手がいない。その分純平は雪絵という存在がある。 「相変わらずポンコツはポンコツさ。人から頼まれたコピーを喜んでやってるよ。俺はコピーのプロだ、なんて言ってるけど、これからどんどんペーパーレスになっていくん世の中じゃあ、コピーのプロも先行きが不安だろうよ。上司替えでもしてくれなきゃ先が思いやられるよ」 「上司替えってあるんですか?」 いつものテーブルに頭を置いた雪絵が聞く。 「どうだろうな。今は大学の学歴格差を目の当たりに受けてるよ。やっぱり世の中学歴が重要なんだよな」 「そんなことないワン」 聞き慣れない甲高い声がした。声のした方に目を向けると、雪絵の横の死角には犬がいた。小型犬ではあるものの、それは普通の犬ではなかった。 片方の目は眼窩からこぼれ落ち、視神経とよくわからないもので何とかつなぎ止められて少し揺れている。 腹部は外と中を反対にしたように、臓器が丸ごと外に出ていた。理科の解体模型の状態のように、皮膚が失われ中身が全て見えている状態と言うのがわかりやすいかもしれない。一部が欠損しているようだ。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加