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「わぁぁぁぁぁぁぁ」 純平は思わず声が出た。周りに家は少ないので近所迷惑にはなってないだろうが、相当大きな声が出た。 ろくろっ首のように首の長い女性の横に、一部欠損した内臓をあらわにし、目ん玉を揺らした犬がいる。驚かずには居られない。 「驚かせちゃってごめんなさい」 雪絵が自分の手で自らの頭を少し下に傾けた。どうやら謝ったようだ。 「そんなに驚かなくていいワン」 ヨダレをダラダラ垂らしながら犬が言う。垂れたヨダレの行方が気になり下を見ると濡れてなかった。現世のものには移らないらしい。 「だれ?」 言ってからすぐだれ?という質問は正しかったのか疑問になる。 なに?の方が正しい気がする。だれ?という質問をした時点で、人間とまではいかないがそれ相応の存在を既に認識している証拠だ。 「この子はシロ」 雪絵はシロと呼んだ犬の頭を撫でる。その振動で目ん玉の揺れは激しくなり今にも取れそうだ。あらわになっている臓器達も、その性質を存分に示すようにプルプル揺れていた。 「はじめまして、シロだワン」 シロだワンと言われても全く可愛げがない。なんせ目玉がブラブラして贓物が露見している。可愛いという言葉はどう考えても似つかない。ただただグロいだけだ。 「純平さんが仕事してる間、あっちの世界で見つけた可哀想な子なんです」 いやいやいや。余計なことはしないで欲しい。現状でさえ意味がわからないのに、なぜそれに加えて変な犬がいるんだ。可哀想とか言っているが、俺が一番可哀想だ。そう!俺が一番。 「別に何か危害を加えたりしないワン」 もし俺に何か危害でも加えようなら、その露出した贓物に手を突っ込み、ミキサー代わりにぐるぐる回してぐちゃぐちゃにでもしてやろうか。それとも飛び出た目ん玉を限界まで引っ張って、出てきたヒモ類を首に巻き付けたろか。 そう思ったが、口に出すまでには至らなかった。 「シロはね、元々の飼い主の子が散歩中に轢かれちゃったみたいなの。飼い主の子は無事だったみたいなんですが、シロはこんなんになっちゃって」 雪絵は同情の表情を浮かべ、シロの頭を再び撫でた。その振動でまた目ん玉がブラブラと揺れ、贓物がプルプルと揺れた。 「雪絵さんがここに連れてきてくれたんだワン。話を聞いていたら、もしかしたらボクの生前の心残りを解消してくれるかもしれないって思ったんだワン」 この女はいったいどんな話をしたと言うんだ。どこをどうやったら車で轢かれた犬の想いを叶えられると言うのだ。 「純平さん、シロのお力になって貰えないですか?」 なんだその目は。いつも通り虚ろではないか。うるうると目に涙を浮かべていそうな雰囲気を出しているが、いつも通り青白い顔をしてあんまり表情がない。同情を誘い何をするかわからないが、協力をさせようとしたって無駄だ。絶対にやらない。 ただでさえ、仕事でポンコツを抱えている。面倒事はお断りだ。これ以上仕事を増やすな。
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