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シロの町に行ってから数日が経っていた。作戦会議を称して帰宅したものの、未だいい考えは浮かばなかった。 「ただいま」 仕事から帰るとここ数日の不機嫌なシロから一変、一枚の紙切れを咥えてシッポを激しく振っていた。作戦会議と帰ってきたもののそのまま寝たことにシロは腹をたてていた。ヨダレは現世のものには移らないが、現世のものは咥えられるのかと不思議に思ったが、その紙切れを手に取った。 探し人探します 大きくそう打ち出されていたチラシは探偵事務所のものだった。探偵に依頼する案は純平の中で一番に浮かんだ。しかし、シロの探し人のためになぜ純平が大金を払わなければいけないのかという結論に至り、その考えは除外していた。 「これいいワン」 シロのシッポが激しく左右に動く。 「今日散歩中にシロが見つけたんです。純平さんどうですか?」 いやいやいや。お前ら一日中暇だろ?現世だかあっちの世界だかわからないけど、ウロウロしてるだけなんじゃねぇーの。あとはあっちの世界の人づてに探してもらうとか、自分たちで動くとかないの。こっちはポンコツと仕事して疲れてんの。お前たち疲れとかそーいうのないだろ。 「あのさ……」 純平が口を開こうとした時シロが飛びついて来た。露出した贓物を純平にあて、ヨダレをダラダラ垂らしながら純平の顔を舐めてきた。実際ヨダレはつかないし舐められてるわけではない。不思議な感覚だ。 「これでたろうちゃに会えるワン」 シロは本当に嬉しそうだった。長年会えなかった初恋の人と再会する、そんな感覚に近いのかもしれない。それに伴う費用のことなど露知らず。シロを見つめる雪絵も笑顔を浮かべているようだ。 それを見ていたら、やってあげないという選択肢が失われた。 「はあ」 純平は大きくため息をついて、再びそのチラシに視線を戻した。
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