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「あの探偵はなんなんだワン」 シロが憤慨している。一抹の期待を抱いていたらしい。それなのにどう考えてもぼったくりでしかない探偵事務所だった。 「あれは酷かったですね」 雪絵も呆れていた。 純平も二人と同感だった。知識がない人間はどこでも金をむしり取られる。少し冷静に行動した方がいいと感じられた一日だった。 「いくつか探偵事務所あたってみようかと思うんだけど」 純平の言葉に二人は頷く。 「結果、たろうちゃが見つかればいいワン。お金はできるだけ安いに越したことはないないワン」 「そうね。あくまでも目的はシロの飼い主だったたろうちゃだものね」 どことなくシロは寂しげな雰囲気を出していた。きっと雪絵も冷たい肌で感じていただろう。 純平はそういうのが苦手だ。自分ができることで他人を救えるなら多少迷惑をこうむっても手伝ってしまう性分だ。本当ならそんな面倒はゴメンだ。しかしどうしても放っておけない。自分が少し手伝えば、少し我慢すれば、少し大きな心で許すことができれば。色々な少しをどうしてもやってしまう。人がいいと言えば聞こえがいいが、単なるお節介焼きなのかもしれない。 パソコンで近隣の探偵事務所を探し、明日の休みに行動する予定を立てる。これで土日の休みが終わってしまう。月曜日からはポンコツの田西と仕事になる。 なんの気分転換もできないまま来週を迎えるのが憂鬱に感じられた。少しでいい。なにかいつもと違うものが欲しかった。家にお酒が常備してあるわけではない。タバコも吸わない。彼女はもちろんいない。 「純平さん、どうしたんだワン」 目ん玉をブラブラさせてシロが聞いてくる。 「そうよ。なにか相談に乗れることがあればいくらでも乗りますよ」 おきまりのテーブルに乗せた雪絵の頭がそう言う。 そうだった。あまりに当たり前になりすぎていて忘れていた。純平にはろくろっ首の雪絵と目ん玉が垂れ下がり贓物を露出したシロがいる。どう考えても周りの人間と違う部分だ。改めて二人を眺めた。不思議そうにこちらを見ているが、純平の心の中は読めないのだろう。 「ふぅー」 純平は大きく息を吐いた。 目の前の問題を解決出来なくてなにがお客様のためになるだろうか。営業マンたる人間は頼られたら最後まで面倒を見るのではないのか。これは試練だ。ホンの小さな試練。そう思うとなんだかシロが愛おしく感じられた。雪絵の傍に座るシロの頭に手を伸ばし撫でた。その振動で目ん玉が揺れ、一部の贓物がプルプルと揺れた。撫でられたシロは気持ちよさそうだ。雪絵はそれを無言で眺めていた。
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