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次の日、ネットで調べた近隣の探偵事務所を訪ねた。
前回同様雑居ビルに位置し、どことなく怪しげな雰囲気を醸し出していた。階段を上り事務所のある二階に向かう。前の事務所同様に、鉄扉に大きく看板がはられていた。
本気探偵事務所
純平は扉の前で大きく深呼吸をした。初めてのところはやはり緊張する。仕事柄そんなこと言ってはいられないが、まだまだ慣れない。
ノックをすると中に促す声が聞こえた。
「失礼します」
扉を開け中に入る。
デスクに腰掛けていた五十代と思える男性がこちらを見ていた。
「こんにちは」
男性は柔和な笑みを浮かべ立ち上がる。
「どうぞこちらへ」
入口でつったっている純平に向かって、ソファーのあるところに手を差し伸べた。
「どうぞ、おかけください」
純平は男性の正面から少しズレた位置に座る。その横に雪絵、その膝の上に雪絵の頭と並んでシロが座る。男性は純平の座り位置に疑問を感じたようだが何も言わない。
「わたくし本気探偵事務所の本気です」
渡された名刺には、本気出男と書かれていた。ちょっと待ってくれ。さすがにそれは行き過ぎた名前だろうと思った。隣にいる雪絵とシロもその名刺に釘付けだ。
「本日はいかがなさいましたか」
本気は優しい口調で尋ねてきた。前回の探偵事務所の話も含め、概要を大雑把に伝えた。
「なるほど。会いたい人がいて会いに行ったら家が取り壊されて更地になっていた。転出先もわからないのでわたくしに探して貰いたい、そういうことですね」
話を要約してもらったのは良かったが、どうも自分のことをわたくしというのが耳につく。一人称をどう呼ぼうと本人の勝手だが、わたくしと言う人は初めてだった。
「単刀直入に聞きますが、費用ってどれくらいかかりますか?先程も話した通り、前回の探偵事務所はどう考えてもぼったくりでしたから、ココはどうかと思いまして……」
冒頭は声も大きく強気な口調だったが、最後まで維持出来ずしりつぼみになってしまった。相手のことをあまり知らない状態でグイグイいくのはやはり苦手だ。もしかしたらコレができるようになれば、今の仕事に生きるかもしれない、と純平はふいに思った。
「成功報酬でこれくらいで、交通費などで事前に一万円ほどちょうだいしてます」
提示された金額は前回の探偵事務所のおよそ半額だった。二重料金の後のものよりも安い。ネットで調べた相場をやや下回った。
「交通費はあくまでもわたくしが調査で使用した分になります。長期化すればそれなりに追加で徴収させていただきますが、短期で解決に至れば差額はお返し致します」
前回と比べると全てが明快だった。不慣れな純平ですらこの人は信頼出来ると感じさせられるやり取りに思えた。
その後も不安な部分や最終的な成功報酬の話もして、隣にいる二人も頷く中、契約を結んできた。
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