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オリエンテーションが終わった。すると、先程説明をしてくれていた志田部長が近づいてきた。
「南田純平くん」
「はいっ」
思わず背筋が伸びる。
「ちょっと話があるんだけどいいかな」
同期の視線が注がれる中、別室へと連れていかれた。
ダンボールが積み上げられた部屋で、テーブルを挟んで向かい合う二つの椅子に着席を促された。後から志田部長が座る。
オリエンテーションだけと聞いていたので極度の緊張に包まれる。志田部長が口を開いた。
「南田くんがこの後帰る予定になっているマンションがあるだろう」
この会社は遠方からの社員のために社宅が用意されている。普通に借りるよりもかなり安く住むことができる。
「そこが別の者が入ることになってな」
「えっ?」
聞き返さずにはいられない。オリエンテーションが終わったあとはめいめい社宅である自宅に帰る予定で、社交的な人達ならどこかご飯でも食べながら帰るだろう。もう荷物も送ってあるし、帰る場所がこの一瞬で無くなった。
純平は左右に積まれたダンボールを見た。リサイクルしたダンボールはどことなく見たことがある気がする。見慣れた汚い字で中身が書かれている。
「あぁ、ここにある南田くんの荷物はちゃんとあとから送るから」
「あの……」
「新しい社宅のことでしょ。大丈夫、ちゃんと用意してあるから。マンションがなかったからちょっと会社から離れちゃうんだけど一軒家を用意したよ。前に住んでた人が置いていった家電とかがそのままになってて、買い足しとか必要ないって不動産屋が言ってたから」
ちょっと待て。不動産屋が言ってたって言うけど、内見してないのか?しかも会社から少し遠いと言うがどれくらいあるのだろう。予定の社宅であれば二駅隣りだ。しかし一軒家がその辺にあるとは思えない。間違いなく家賃が高いはずだ。家電を買い足さなくてもいいならお金の心配はないが、果たしてどれくらい前の商品なのかにもよる。10年前の冷蔵庫とあれば電気代がバカにならない。いやいやいや!そんなことよりマンションに住んでみたかった。実家は一軒家だったし古い家だったからすきま風が酷かった。きっと俺が決まった後に優秀な人材が入ったんだ。その人に譲ったんだろう。社会に出ても学力格差が生まれる。三流にも満たない大学から一流企業に勤めるとなるとこんなものなのか。
純平は志田部長に教えられた住所を頼りに新居に向かった。
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