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「あそこの事務所は素晴らしいワン」 自宅の和室でテーブルを三人で囲み、シロは激しくシッポを振った。 「そうね。前回の探偵事務所があったから、尚更真面目に感じられたわ」 「結局、たろうちゃが見つからなきゃ意味ないんだよな」 「そうだワン。いくら人が良くても、頼んだことをやってくれなきゃ意味ないワン」 「シロはさ、イヌじゃん?」 「純平さんは今更何を言うワン。ボクはイヌだワン」 正確に言うと、犬だった、である。今はイヌっぽい造形をした目ん玉をブラブラ揺らせて贓物を露出しているモノである。目の前のコレをイヌと呼んでしまうと、世の他の犬達に申し訳が立たない。 「イヌって鼻良くないの?」 純平の質問の意図が読めずにシロは首を傾げた。 「ほらっ、よく警察二十四時とかでイヌの鼻で犯人を逮捕したり、荷物にまみれた薬物を見つけたりするじゃん。だからシロも鼻が良くないんかな?って思ったんだよ」 話を聞いたシロは合点がいったようだ。少し頷いた。 「そりゃボクだってイヌですから鼻はいいですよ」 「前にたろうちゃの街に行ったとき、たろうちゃの匂いってしなかったの?」 純平の質問にそういえば、という呆けた顔をした。 「確かにたろうちゃの匂いがちょっとしたワン。懐かしくて思い出が蘇ってそう思っただけだと思ったけど、もしかしたら本当に匂ったかもしれないワン」 「あら、それじゃあ、その匂いを頼りに行けばたどり着けたかもしれないわね」 「それは難しいと思うワン。匂いがいつまでもそこにあるわけではないワン。あそこの更地は匂いが強くついてたかもしれないけど、道とかはそうでもないワン」 確かにシロの言う通りかもしれない。慣れ親しんだ土地には匂いが染みついていたかもしれない。人が今移動したなら匂いは繋がっているだろう。しかし、雨や風や行き交う車や人で匂いが消えている可能性が高い。 仮にあの更地の傍に住んでいれば別の話だが、なんの情報もない状態では暗中模索と言える。
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