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週が開ければ、本気探偵事務所からの連絡を心待ちにしているシロと雪絵を置いて仕事に向かう。なかなか体と気持ちが休まらない週末が続いている。営業マンも常にお客様のことを考えている仕事だと思えば、似たようなことかもしれない。 「行ってきます」 バスと電車に揺られて職場に向かう。思い返せば毎日が刺激的だ。やることが続いていて飽きることがない。このまま職場に行けばポンコツの田西と仕事をする。最近は同僚の仕事を断るようになったが、それでも顧客が少なくて一日のタスクが少ない。純平は新規を開拓することよりも、今田西が抱えている顧客ともっとズブズブになることが最優先だと思っていた。もちろん新規を増やしていかないと先がないが、飛び込みでの新規開拓よりも、顧客からの紹介を貰うことが自信にも繋がると考えていた。 出社すると田西が苦手そうにパソコンを叩いていた。本当に壊してしまうのではないかと思うほど叩いていた。 「おはようございます」 軽快に挨拶をすると画面から視線を移した。 「あっ、南田くんおはよっ」 肩に入っていた力が抜けるのがわかる。どれだけ体を強ばらせてパソコン業務を行っていたというのだ。 「なかなか資料作りができなくてね」 言われて画面を見ると、やはり高校生レベルのチープな資料だった。 「やっぱりやってかないと上手くならないもんですよ」 純平にフォローされて「そうだよね、そうだよね」と呟きながら再びパソコンとにらめっこを始めた。 お昼どき公園の木陰で田西と昼食を取っていると、純平の携帯が鳴った。会社から渡されている携帯ではなく自分のものの方だ。画面を見ると知らない番号からだった。口の中に残っていた食べ物をお茶で流し込んだ。 「もしもし」 「もしもし、南田様の携帯電話でよろしいでしょうか」 どこか聞き覚えのある声だった。 「はい」 「わたくし本気探偵事務所の本気でございます。いつもお世話になっております」 昨日訪ねた探偵事務所だ。昨日の今日でなんの用だろうか。 「ご依頼のありました尋ね人ですが見つかりましたので、そのご連絡になります」 「えっ!?」 思わず声が出た。 尋ね人というのはそんなに簡単に見つかるものなのか。それとも敏腕探偵なのか。どちらにせよこれでシロの問題が解決する。 お礼を伝え、今度の土曜日のお休みの日に伺う旨を伝えた。 「だれ?」 隣の田西が訝しげに見ていた。 「いやっ知り合いからです」 「知り合いからの電話でありがとうございますっておかしくない?だって知り合いなんでしょ?敬語は不自然だよ」 確かに言われればそうだ。この際どうでもいい部分だが田西は昼食の手を止めてじっとこちらを見ている。 「いや、先輩に人探し頼んでてその人が見つかったって連絡です」 真実を織り交ぜて嘘をつくのが一番バレにくいと聞いたことがある。全て嘘にしてしまうとそこから先の話が全て作り話のファンタジーになってしまうからだ。 「ふーん」 まだ解せない様子だ。 「それにしても、着信画面見たとき誰だろう、みたいに眉間にシワ寄せてたし、もしもしって出る時も疑っているような感じがしたよ。そんな先輩いるんかね」 鋭い観察力だ。言われてみればまさにその通りである。田西の思わぬ能力を見せつけられた。
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